高橋昭雄東大教授の農村見聞録(37)
飛び立つミャンマー■人口・世帯センサスにみる農村の就業構造
2014年の3月から4月にかけて実施された「ミャンマー人口・世帯センサス」の主なデータ、すなわち都市農村別、男女別、世代別の人口、教育歴、識字率、人口移動などに関しては、昨年5月29日に公表された。この概要については、農村見聞録(26)(15年6月12日付)で述べた。
その後、センサス結果の第2弾が「就業および産業」と題して今年3月28日に発表された。今回はこのリポートをもとに、ミャンマーの労働力人口および就業構造を、1983年のセンサスからの変化および都市部と農村部との比較を念頭に入れながら考察してみることにしよう。
◆生産年齢人口が上昇
通常はどの国でも10年に1度は行われる人口センサスが、ミャンマーでは1983年以来31年間も行われてこなかった。この間、人口は約3412万から約5028万に増加した。年平均増加率は1.26%である。また都市化率は24.8%から29.6%に上昇した。それでも東南アジアで最も低い。
1983年の生産年齢人口(15~64歳)は約1963万人だったから、生産年齢人口対総人口比率は57.6%となる。これが2014年には65.6%に上昇した。低下している日本とは対照的に若い労働力が増加していることを示す。さらに、生産年齢人口に占める労働力人口、すなわち労働力率も、1983年の57.2%から2014年には64.4%に増えた。都市部では52.5から62.6%、農村部では57.6から69.1%への増加である。社会主義から市場経済へと移り変わる中で、労働市場への参加率が増えたと考えられる。
ここで気になるのが、10~14歳の年少者のいわゆる児童労働である。1983年には、この年齢層人口の3.9%が都市部で、13.1%が農村部でそれぞれ労働力となっている。この数値が都市部では6.5%に増加し、農村部では12.1%に減少した。農村部では収穫労働や家畜の世話あるいは他家での家事手伝いといった児童労働が依然として多く、都市部では小規模な家内工場や飲食店での児童労働が増加していることを反映している。
◆農業所得が大幅低下
以上が労働力に関する考察であるが、続いて就業構造の変化についてみていこう。1983年には農林水産業従事者は全就業者の64.6%だったが、2014年には52.4%に減った。製造業も9.2%から6.8%に減少したが、建設業が1.3%から4.5%に、商業および飲食・ホテル業が11.4%から13.9%、公務・サービス業が6.7%から9.7%にそれぞれ増えた。経済開放下での建設ブームや観光客の増加、輸出入の拡大などによるものと思われる。
農林水産業は農村部における最重要産業である。その就業者数をみてみると、1983年には農村部で農林水産業に従事する人口は約739万人で、農村部の全就業人口の80.4%を占めた。そのうち農地を保有する農民が約401万人(54.2%)、農地を持たず農民に雇用されて働く農業労働者が約309万人(41.8%)で、残りの約29万人(4.0%)が林業や畜水産業の従事者であった。2014年になると、農村部の農林水産業就業人口は約1048万になったが、全就業人口に対する比率は68.7%に減少した。2014年センサスの報告書には農林水産業以下の内訳が載せられていないが、筆者が実態調査で得た感触では、農民に対する農業労働者人口比は増加しているものと思われる。
以上から、1983年には全人口の75.2%が農村に居住し、その労働力の80.4%が農林水産業に従事していたが、2014年には農村居住人口が全人口の70.4%に減少し、農林水産業就業人口の構成比も68.7%に低下した、という結論を得る。農林水産業就業人口を農業就業人口と読み替えても大きな誤差は出ないが、農業就業人口には農民だけでなく、多くの農業労働者が含まれていることを忘れてはならない。
1983年の農業部門の名目国内総生産(GDP)構成比は39.1%だったが、2014年には19.7%と大幅に下落している。農林水産業就業者の96%は農業部門に従事しているとして、以上の数値を[農業部門のGDPシェア÷全就業人口に占める農業就業者の構成比]=[農業部門1人当たり平均所得÷国民経済1人当たり平均所得]という恒等式に当てはめてみると、それぞれ1983年については63.0%、2014年については39.2%という値を得る。すなわち1983年時点ですでに農業部門就業者の平均所得は全就業者の平均所得より37.0%低かったが、2014年には60.8%も低くなってしまったということになる。社会主義からの移行段階では農業の交易条件が一時的に改善したが、市場経済の進展に伴って、農業は割のいい仕事ではなくなってきたといえよう。(随時掲載)
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