アベノミクス、次の一手 消費税マイレージ制導入を
論風□上智大学教授・大和田滝惠
個人消費の低迷が続いている。どうすれば、国内総生産(GDP)の6割を占め、景気回復の柱となる個人消費を喚起できるのだろうか。消費喚起のメカニズムを考えてみたい。
デフレ経済の中で身に付いてしまった消費者の買い控えは、物価が上がっていくというインフレ予想が解消するとして日銀の金融緩和は3年間、物価を上げることに邁進(まいしん)したが、物価上昇は買い控えを強める結果となった。企業が将来に自信を持てず、社会全体で見れば賃上げが不十分だったからだ。可処分所得の増加が中長期にわたって見通せない中では、物価が上がると消費者は買い控えに走らざるを得ない。
日銀の意図が達成されるには結局、物価上昇率を上回る賃金の継続的な改善が日本中で広く起きなければならなかった。つまり、消費が喚起されるのは、国民全体にとって物価変動の影響を除いた実質の可処分所得が増え続ける見通しが立つことではないか。
◆政府代替の国民皆貯蓄
では、どうやって実質可処分所得を増やし、消費喚起に結び付けられるのだろうか。従来の延長線上の対策を繰り返しても成果を出せない。単なる減税や給付金、最近のプレミアム商品券に至るまで効果は長続きしなかった。米著名経済学者・フリードマンも、人々は一時所得が手に入ると将来への預貯金にしてしまうので、消費が伸びるためには恒常所得が増えなければならないと言っていたが、正しい見方だ。
人々の恒常所得を担っている企業の賃上げが広がりを見せず、政府による企業へのテコ入れも十分には奏功しない中、残された打開策は、政府が国民全員に対して可処分所得が生涯を通じて持続的に増えていくようにして将来不安を取り除いていくことである。具体的には、国民の一人一人に効果が及ぶように消費税制を活用し、各世帯の平均消費性向から逆進性対策を施した上で、日々支払う消費税を個人勘定で積み立て、運用分を加えて、原則として年金給付に上乗せして還付する「消費税積立貯蓄制度」を実施する。政府が代わって貯蓄する代替貯蓄であるので、人々は給与から低金利預金に入れる分を減らしたり、近年増えているタンス預金を多めに取り出したり、手持ちのおカネが使えるようになる。
当政策案の政界での提唱者・日本のこころの中野正志幹事長は、国民から親しまれる制度となるようにと、通称名を「消費税マイレージ制」と命名し、国会質疑で政府に政策提言する中で、「消費者はワンランク上の品物を買う」「国民がより質の高い毎日の生活を送ることができる」と表現して消費喚起の正に肝を指摘された。
◆生活水準の上昇志向
つまり、経済史上ずっと、人々が持つ生活水準の上昇志向が原動力となって消費は拡大し、GDPの成長率を押し上げてきたのである。その背景は、可処分所得が持続的に増えると消費拡大につながるのであり、過去の基本給・ベアの引き上げと名目GDPとの相関について日本総研が最近公表した調査研究からも読み取れる。人々は魅力的な新製品が出ると日常の出費を抑えてでも購入しているし、中間層・貧困層を中心に日々の食料品などで生活の質的向上には意欲的である。可処分所得が増えない中では消費の全体が伸びないだけで、生活水準の上昇志向は衰えることはない。そうした上昇意識が持続的な消費意欲を維持し、全人口の消費喚起が生む追加税収で高齢者への還付財源をまかなってなお余りある。
これから先、経済成長を阻むのは人口減少だが、20世紀を代表する大経済学者のケインズは80年も前に、そんな中でも生活水準の上昇志向が経済成長を下支えし得るし、いかに人々の上昇意識のバックアップが重要かを見て取っていた。そのバックアップとは、つまり可処分所得を持続的に増加させることであり、当政策案では特に若者世代に手厚く代替貯蓄できることが人口減少を食い止めるのに有効であろう。
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【プロフィル】大和田滝惠
おおわだ・たきよし 上智大学国際関係論博士課程修了。外務省ASEAN委託研究員、通産省NEDOグリーンヘルメット調査報告委員会座長などを歴任。著書多数。経済論文に「ヴィジブルな社会への経済政策」など多数。専門は社会哲学。65歳。東京都出身。
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