「増税再延期という『新しい判断』について参院選で国民の信を問いたい」
安倍首相会見・詳報(上)安倍晋三首相は1日夕、官邸で記者会見し、平成29年4月に予定していた消費税率10%への引き上げを31年10月まで2年半延期する考えを正式に表明した。記者会見の詳報は次の通り。
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「本日、通常国会が閉会しました。成立した法律や予算によって、介護休業給付の拡充、介護や保育の受け皿整備、不妊治療への100%助成、ひとり親家庭への児童給付手当の増額など1億総活躍社会の実現に向け、新たな取り組みが次々とスタートします。少子高齢化の流れに歯止めをかけ、誰もが生きがいを感じられる社会をつくる。1億総活躍の未来を踏み出すため大きな一歩を踏み出す、未来へと挑戦する国会になったと考えています。
他方、足下では新興国や途上国の経済が落ち込んでおり、世界経済が大きなリスクに直面している。こうした認識を先般、伊勢志摩サミット(主要国首脳会議)に集まった世界のリーダーたちと共有しました。
先般の熊本地震で、熊本や大分の観光業や農業、製造業など、九州の広い範囲にわたって経済や暮らしが打撃を受けています。これらが日本経済にとって新たな下ぶれリスクとなっている。最悪の場合、再びデフレの長いトンネルへと逆戻りするリスクがあります。
今こそ、アベノミクスのエンジンを最大にふかし、こうしたリスクを振り払う、一気呵成に抜け出すため脱出速度を最大限まであげなければなりません。アベノミクスをもっと加速するのか、それとも後戻りするのか、これがきたる参院選の最大の争点です。
伊勢志摩サミットで取りまとめた合意を、議長国として率先して実行に移す決意です。アベノミクス、三本の矢をもう一度力いっぱい放つため、総合的かつ大胆な経済対策をこの秋、講じる考えです」
「最も重要なことは、構造改革を断行し、将来の成長を生み出す、民間投資を喚起することでます。TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)の早期発効を目指します。さらには日本と欧州連合(EU)とのEPA(経済連携協定)など、良いものが良いと評価される自由で公正な経済圏を世界に拡大するため、新しい投資機会を作り出します。
現下のゼロ金利環境を最大限に生かし、未来を見据えた民間投資を大胆に喚起します。新たな低利貸付制度によって、21世紀型のインフラを整備します。リニア中央新幹線の計画前倒し、整備新幹線の建設加速によって全国を一つの経済圏に統合する『地方創生回廊』を、できるだけ早くつくります」
「保育所や介護施設の整備など、未来の1億総活躍社会を見据えた投資を力強く進めます。最大のチャレンジは、多様な働き方を可能とする労働制度改革です。長時間労働の慣行を断ち切る、雇用形態にかかわらない均等待遇を確保する。そして同一労働同一賃金を実現します。
非正規という言葉を日本国内から一掃する。その決意で全体の所得、全体の所得の底上げを図り、内需をしっかりと拡大していきます。こうした諸改革とあわせて、熊本地震の被災者の皆さんの不安な気持ちに寄り添いながら、被災地のニーズをしっかりと踏まえつつ本格的な復興対策を実施します。
先進7カ国(G7)で協力し、世界的な需要を強化するため、将来の成長に資する分野で大胆に投資を進める。人工知能、ロボット、世界に先駆けた技術革新を日本から起こす。しっかりと内需を支える経済対策を行う考えです」
「その上で、来年4月に予定される消費税率10%への引き上げについて、お話しします。1年半前の衆院選で、私は『来年4月からの消費税率引き上げに向けて必要な経済状況を作り上げる』と約束しました。そして、アベノミクスを強力に推し進めてまいりました。
現在、有効求人倍率は24年ぶりの高い水準となっています。都会だけの現象ではありません。就業地別である北海道から沖縄まで47都道府県、全て1倍を超えました。これは史上初めての出来事です。
1人の就職者に対して、1つ以上の仕事があるという状況を作り出すことができたんです。リーマン・ショック以来、減少の一途をたどっていた正規雇用は昨年、8年ぶりに増加に転じ、26万人増えました。この春の高校生の就職率は24年ぶりの高さです。大学生の就職率は過去最高となりました。
中小企業の倒産も、政権交代前から3割減少しています。ここまで倒産が減ったのは25年ぶりのことです。所得アップについても、連合の調査によれば、中小企業も含めて一昨年、昨年に続き、今年の春も3年連続で、今世紀に入って最も高い水準の賃上げを実現することができました。
そしてパートの皆さんの賃金も過去最高を記録しています。一部の大企業で働いている方の給料が上がっただけではありません。パートで働いている皆さんの時給も過去最高となっているんです。どうかここも見ていただきたい。雇用をつくり、所得を増やす。まだまだ道半ばではありますが、アベノミクスは順調にその結果を出しています」
「しかし、世界経済はこの1年余りの間に想像を超えるスピードで変化し、不透明感を増しています。最大の懸念は、中国など新興国経済に陰りがみえることです。リーマン・ショックのときに匹敵するレベルで原油などの商品価格が下落し、投資が落ち込んだことで、新興国や途上国の経済が大きく傷ついています。
これは世界経済が成長のエンジンを失いかねないということであり、世界的な需要の低迷、成長の減速が懸念されます。世界の経済の専門家が警鐘を鳴らしているのは、まさにこの点です。
これまで7回にわたり『国際金融経済分析会合』を開催し、ノーベル経済学賞を受賞したスティグリッツ教授やクルーグマン教授をはじめ、米国や欧州、アジアの経済の専門家から意見を伺ってまいりました。その専門家の多くが世界的な需要の低迷によって今年、そして来年、さらなる景気悪化を見込んでいます。
こうした世界経済が直面するリスクについて、G7のリーダーたちと伊勢志摩サミットで率直に話し合いました。その結果、新たに危機に陥ることを回避するため、適時に全ての政策対応を行うことで合意し、首脳宣言に明記されました。
私たちが直面しているリスクは、リーマン・ショックのような金融不安とは全く異なります。しかし、私たちはあの経験から学ばなければなりません。2009年、世界経済はマイナス成長となりましたが、2008年時点ではIMF(国際通貨基金)も4%近いプラス成長を予測するなど、そのリスクは十分に認識されていませんでした。プラス4%の成長予測が一気にマイナス成長になってしまう。これがリスクが現実のものとなったときの危機の恐ろしさです。
私は世界経済の将来を決して悲観しているわけではありません。しかし、リスクには備えなければならない。今そこにあるリスクを正しく認識し、危機に陥ることを回避するため、しっかりと手を打つべきだと考えます。G7による合意、共通のリスク認識のもとに日本として構造改革の加速や財政出動などあらゆる政策を総動員してまいります。
そうした中で、内需を腰折れさせかねない消費税率の引き上げは延期すべきであると、そう判断いたしました。
いつまで延期するかについてお話しします。中国などにおいては、過剰設備や不良債権の問題など構造的課題への対応の遅れが指摘されており、新興国経済の回復には時間がかかる可能性があります。世界的な需要の低迷が長期化することも懸念されることから、できる限り長く、延期すべきだとも考えました。
しかし、私は財政再建の旗を降ろしません。
わが国への国際的な信認を確保しなければならない。そして社会保障を次世代に引き渡していく責任を果たす。安倍内閣のこうした立場は揺るぎないものです。2020年度の財政健全化目標はしっかりと堅持します。
そのため、ギリギリのタイミングである2019年10月には消費税率を10%へ引き上げることとし、30カ月延期することとします。
その際、軽減税率を導入します。3年間のアベノミクスによって、国、地方あわせて税収は21兆円増えました。2年半の延期によって、その間にアベノミクスをもう一段加速する。そのことで、さらなる税収アップを確保し、2020年度のプライマリーバランス(基礎的財政収支)の黒字化を目指す考えです」
「1年半前、衆院を解散するにあたって、この場所で、私は消費税率の10%への引き上げについて『再び延期することはない』とはっきり断言しました。『リーマン・ショック級や東日本大震災級の事態が発生しない限り、予定通り来年4月から10%に引き上げる』と繰り返し約束してまいりました。
世界経済は今、大きなリスクに直面しています。しかし、率直に申し上げて、現時点でリーマン・ショック級の事態は発生していない。それが事実です。熊本地震を大震災級だとして、再延期の理由にするつもりももちろんありません。そうした政治利用はひたすら復興に向かって頑張っている被災者の皆さんに大変失礼なことです」
「今回、再延期するという私の判断は、これまでのお約束と異なる『新しい判断』です。公約違反ではないかとの批判があることも真摯に受け止めています。
国民生活に大きな影響を与える税制で、これまで約束してきたことと異なる判断を行うのであれば、まさに税制こそ民主主義です。まず国民の皆様の審判を仰いでから実行すべきです。
信なくば立たず。国民の信頼と協力なくして政治は成り立ちません。新しい判断について国政選挙であるこの参院選を通して国民の信を問いたいと思います。
国民の信を問う以上、目指すのは、連立与党で改選議席(121議席)の過半数の獲得です。これは改選前の現有議席を上回る高い目標でもあります。
さらに、野党は政策の違いを棚上げしてまで、選挙目当てで候補の一本化を進めています。大変厳しい選挙戦となる。それは覚悟の上です。しかし、この選挙でしっかりと自民党、公明党の与党で過半数という国民の信任を得た上で、(消費税増税の再延期)関連法案を秋の臨時国会に提出し、アベノミクスを一層加速させていく、その決意です」
「9年前、私は総理大臣として夏の参院選で大敗し、その後、総理の職を辞することとなりました。あのときの挫折は今も私の胸に深く刻み込まれています。困難な政策であればあるほど国民的な理解を得て、国民とともに前に進むほかに道はない。これがあのときの反省であります。
その反省の上に、この3年あまり国政に邁進してまいりました。4年前の衆院選、3年前の参院選、1年半前の衆院選。国民の皆様から大きな力をいただいてアベノミクスを加速することができました。その結果、世の中の雰囲気は大きく変わったことは事実です。まだまだ道なかばではありますが、雇用は確実に増え、所得も確実に上がっています。この道を力強く前に進んでいこうではありませんか。4年前のあの低迷した時代に後戻りさせてはなりません。
世界経済がリスクに直面する今、ロケットが大気圏から脱出するときの様に、アベノミクスのエンジンを最大限にふかさなければなりません。デフレからの脱出速度をさらに上げていかなければなりません。そのためにはもう一度、国民の皆様の力が必要です。国民の皆様のご理解とご支持をお願いします」
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