財務省一枚岩に綻び? 首相の決断過程で蚊帳の外

再延期の波紋
東京・霞が関の財務省。かつて最強官庁と呼ばれたころの一枚岩のような結束はない=1日

 「昔と比べて現役がどうとかいうのはあまり感じない。官邸があれだけ強い中で、現役は現役で一生懸命頑張っていると思う」

 安倍晋三首相が消費税再増税の延期を表明した1日夜、財務省の幹部OBは打ち明けた。

 財政健全化を旗印にする財務省は、これまで悲願の消費税率引き上げに向け、節目のたびに、省内一丸となって、政府・与党幹部、有識者、メディア関係者にさまざまな分野での“説得”を行ってきた。

 ただ、今回、首相が決断するまでの過程で、財務省は目立った動きを控えたようにみえる。

 背景には、2014年の増税延期表明の際に財務省が「延期すれば財政健全化できない」としたにもかかわらず、15年度に基礎的財政収支の赤字を半減する目標を達成する見込みになり、官邸サイドの財務省不信が高まったことがある。

 さらに消費税率10%時に生活必需品の税率を抑える軽減税率の導入をめぐって当初の還付制度案に固執した結果、官邸や公明党と対立、代案を出せず軽減税率に決まった経緯もあった。

 かつて財務省は与党税制調査会をテコに重要な税制を実施してきた。だが、頼みの税調も首相が再延期を決めるにあたり「蚊帳の外に置かれた」(関係者)。

 最終局面で、財務省は大型の財政出動を提案するなどして、首相の翻意を期待したが、かなわなかった。

 ■後手後手対応 省内に不満

 後手後手に見える対応に省内には不満もくすぶる。

 ある中堅幹部は「財務省の強さの源泉は官邸に食い込み、財務省が動かないと実効性のある政策ができないということだったが、今はなくなってしまった」と自嘲気味に話す。

 今夏の財務事務次官の交代人事を控え、菅義偉官房長官の横やりを恐れているという週刊誌報道もあり、「だから再増税を声高に言えないのか」(若手職員)との声さえ聞かれた。

 ただ、幹部には別の思惑があったとされる。軽減税率では「財務省・自民党税調対官邸」の構図になった。仮に再増税を押し通し、菅長官と麻生太郎財務相の対立が決定的になれば「麻生大臣は辞任するのではないか。そうすれば安定政権が揺らぎかねない」(幹部)と懸念していた。麻生氏への省内の信頼は厚い。麻生氏が財務相を外れ、政権が不安定になれば再増税の実現そのものに疑問符が付きかねない。

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 結果的に、再増税の時期は、基礎的財政収支を黒字化する財政健全化目標の20年度より前の19年10月。首相も「財政健全化の旗を降ろさない」と表明し、何とか望みをつないだ格好だ。

 もっとも、国と地方の借金が1000兆円を超える日本の財政状況が改善した訳ではない。むしろ、増税時に予定していた社会保障の一部実施や保育士の待遇改善、秋の経済対策など、歳出圧力は膨らんでいる。

 かつて省内には「省益でなく、国家の将来を考えている役所は財務省だけ」との自負があった。財務省が迷走すれば、財政再建の足元も覚束ない。試練を迎えているのは「アベノミクス」だけでなく、財務省も同じだ。(田村龍彦)