消費増税再延期と燃費不正問題

高論卓説

 ■時間的猶予の中、思い切った制度改革を

 来年4月に予定されていた消費税率引き上げの再延長が決定され、予定から2年半後の2019年10月に先送りされる。この決定には、自動車を取り巻く需要、税制、環境規制など、重要な要素に多大な影響を及ぼす可能性がある。

 第1に、需要面への影響だ。日本自動車工業会による16年度の需要予測は久々に強気な525万8400台(前年度比6.5%増)を掲げ、減少傾向が顕著な国内新車販売が3年ぶりに反転するとみていた。この予測には、おおむね20万台強の税率引き上げ前の駆け込み需要が織り込まれていたと考えている。

 足元の需要水準は、季節調整後の年率換算レートで約500万台前後。駆け込み需要が見込めないとすれば、500万台を割り込む可能性もある。円高に苦しむ自動車業界にとって、国内販売の好転が見込めないのは痛手だ。

 第2に、来年4月に撤廃予定の自動車取得税が存続し、同時に燃費性能に応じて課税する「環境性能割」制度の導入が先送りされることが既成事実となった。

 「環境性能割」とは、燃費性能の高いクルマは取得税(2~3%)分を減税し、そうでないクルマは、取得税廃止といいながら、消費税に加え、取得税と同額の税金を徴収しようというものだ。この新税制は、自動車取得税廃止で失われる地方財源1800億円の一部(約800億円)の単純な付け替えの側面が強く、国家自動車戦略を深く勘案した税制とは言い難かった。

 第3に、相次ぐ燃費不正問題を受け、消費税率引き上げ先送りによって得られた時間的猶予が、日本の燃費政策の思い切った見直しにつながる可能性があることだ。

 増税までの3年間の時間的猶予の中で、車体課税やエコカー減税を含めた環境規制の中核にある燃費規制の政策が大きく変化する可能性がある。

 地球温暖化の主因と考えられる二酸化炭素(CO2)の排出量削減は地球規模の課題であり、自動車の燃費性能を高める政策は、各国戦略の重要な一部である。国内でも「エコカー減税」や「グリーン化特例」として法制化され、政策の重要な役割を担う。この結果、低燃費性能は消費者の購買決定の最大の関心事項となった。走行時の経済性に加え、税負担の大幅な軽減につながるからだ。

 しかし、三菱自動車の軽自動車での燃費不正、スズキの大規模な燃費測定法令違反は、公式燃費(いわゆるカタログ燃費)を基準におく燃費政策の問題をあぶり出した。エコカー減税は、実燃費との差異が非常に大きいとされるJC08モードによるカタログ燃費を基に、最も性能が高い車種を上回るよう燃費目標基準値を設定する「トップランナー方式」を採用している。

 このトップランナー方式には賛否両論があるが、恩恵を強く受ける軽自動車とハイブリッド車が、国内販売の実に60%を占めるという市場の“ガラパゴス化”を進めたことも事実だ。

 より実燃費に近づく燃費試験モードの国際調和排出ガス・燃費試験法(WLTP)の導入を促進し、カタログ燃費と実燃費とのギャップの解消へ決着をつける時期に差し掛かってきたといえるだろう。

 日本的なトップランナー方式を続けるか、欧州的な企業別平均燃費(CAFE方式)に向かうべきか、真のエコ化を促す燃費政策の枠組みとは一体何か、改めて考え直す契機となってきたといえる。

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【プロフィル】中西孝樹

 なかにし・たかき ナカニシ自動車産業リサーチ代表兼アナリスト。米オレゴン大卒。山一証券、JPモルガン証券などを経て、2013年にナカニシ自動車産業リサーチを設立し代表就任(現職)。著書に「トヨタ対VW」など。