G7と中国経済 結束強めて過剰生産解消を迫れ

視点

 □産経新聞論説副委員長・長谷川秀行

 経済の歯車がうまく回らなくなると、途端に海外からの視線が厳しくなる。中国は今、それを実感しているのではないか。

 中国で過剰生産された鉄鋼製品がだぶつき、その解消のため輸出に活路を求めていることが、世界中で反発を受けている。中国の不当な安値攻勢によって、各国の鉄鋼メーカーが打撃を受けているためだ。

 経済協力開発機構(OECD)は閣僚声明で、世界的な過剰供給力が貿易に与える負の影響を指摘した。伊勢志摩サミットでは、中国の名指しを避けつつも市場を歪曲(わいきょく)する政府補助金に懸念を示し、必要に応じて反ダンピング(不当廉売)関税などの対抗措置を検討すると首脳宣言に明記した。

 習近平政権は粗鋼生産能力を1億~1億5000万トン削減する計画を掲げているが、その実現性を疑う声は多い。それゆえに、日米欧が足並みをそろえて中国に過剰生産の解消を迫る構図となっている。

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 経済大国として存在感を高めながら、経済への不透明な国家介入が目立つ中国にどう向き合うべきか。それは日米欧が絶えず判断を迫られる重要なテーマである。

 従来は、法の支配が不十分な中国に厳しい目を向ける日米に対し、アジアから遠い欧州は融和姿勢を示し、前のめりの関係強化に動きがちだった。中国主導で設立されたアジアインフラ投資銀行(AIIB)や人民元の国際化への対応がそうである。

 過剰生産問題での日米欧の結束は、これらと趣が異なる。欧州は元来、対中国に限らず反ダンピング措置の発動に積極的である。加えて欧州産業界では中国への不満が大きく、日米と歩調を合わせるのは自然な流れだったということだろう。

 サミットではインフラ投資でも中国牽制(けんせい)の動きがあった。途上国への質の低い投資は環境・社会への負の影響を招くなどと首脳宣言で触れたのがそうだ。質の高い投資を推進する伊勢志摩原則も確認した。

 これらは、中国のインフラ戦略に対抗する日本の基本路線だ。首相は昨年のサミットでも同様の主張をしたが、欧州各国が雪崩を打ってAIIB参加を決めたばかりとあって理解が広がらなかった。今回、日本は討議を主導できる議長国だった。それを割り引いても、先進7カ国(G7)の対中結束は1年前より強まった印象である。

 言うまでもなく、その背景には中国経済の減速傾向がある。国有企業改革や過剰債務の解消なども不十分で、各国の対中姿勢は総じて厳しさを増しているのだろう。少なくとも、期待が先行し、バスに乗り遅れるなとばかりにAIIB参加が相次いだ昨年のような雰囲気はみられない。

 もちろん、経済外交は自国利益優先の現実的な判断に基づく。今後の対中関係も国ごとに融和と対立が交錯する複雑な展開をみせようが、それでもG7の結束は維持したい。昨年のような足並みの乱れを繰り返すようでは、中国の覇権主義的傾向を助長する。その認識は今後も共有すべきだ。

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 連携の試金石となるのが、中国を世界貿易機関(WTO)の「市場経済国」と認めるか否かという問題である。中国はWTO加盟時、当初15年間は他国からのダンピング調査で不利な条件を課される「非市場経済国」と扱われることを受け入れた。その期限が今年末に迫っているのだ。

 失効後は自動的に市場経済国の地位を得るというのが中国の主張である。これに対して日米や欧州連合(EU)は、それぞれ独自に是非を判断する方針だ。

 そもそも、国家主導の恣意(しい)的な経済運営が解消されない中国を市場経済国と呼ぶのは妥当なのか。鉄鋼製品の不当廉売が疑われているのに市場経済が十分に機能しているというのも無理があり、当然、各国には慎重な検討が求められる。感情論で保護主義に走るのは論外だが、不公正貿易の実態があるなら厳しく対処すべきである。

 問題は、規定が失効したのに扱いを変えなければ、WTO協定違反として中国から訴えられる恐れがあることだ。これにどう反論できるのか、日米欧は足並みをそろえて共通の論理を構築する必要がある。その上で中国に一段の改革を迫る。それこそが世界貿易の健全な発展に向けて日米欧が果たすべき重要な責務である。