不幸の度合い増すGPIF 圧力と期待の板挟み、市場の“カモ”に

高論卓説

 旧知の元大学教授から面白い話を聞いた。「今、有識者らの間で最も敬遠されている政府・関係機関の重要役職は日銀の政策委員会委員と、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の理事」だという。ココロは。「ともに見えざる政治の圧力と所轄官庁の意向が強く働き、自説を闊達(かったつ)に語ることもできず、ストレスが蓄積するばかり」だからだそうである。かつて日銀の政策委員会委員とGPIF理事は有識者らの憧れのポストだった。名誉も付随した。

 GPIFは2015年度の運用成績を7月29日に公表する予定だ。決算期末から4カ月近くもかかっての公表だ。上場する銀行なら通常、決算期末から1カ月前後で決算を公表する。資産運用会社は組入株式を日々、値洗い(時価評価)し、日次で個々の株式ファンドの基準価額を発表している。GPIFの運用成績の公表は明らかにタイムリー・ディスクロジャー(時宜を得た情報開示)に反する。GPIFの数理処理能力が劣っているわけではないだろう。何らかの政治的な圧力、所轄官庁の意向が影響したからとしか思えない。

 「運用損失5兆円超」。GPIFが15年度の年金資金の運用で5兆円を超える損失を発生させたとの報道が相次いだ。GPIFは14年10月の基本ポートフォリオの見直しで、国内株式の保有比率を旧来の12%から25%に引き上げた。15年12月末現在の国内株式の保有比率は23%強。日経平均株価は15年3月末に1万9200円台だったが、16年3月末は1万6700円台。1年で約13%下げた。リスク資産の運用が増えれば、相場の上下動で損益は目まぐるしく替わる。株式相場が上昇した14年度は15兆円を上回る黒字だった。

 半年、1年の運用成績で責任を問われ、運用の巧拙を判断されてはGPIFも浮かばれまい。不幸だ。GPIFは短期で運用成果の極大化を求められるヘッジファンドではない。5年、10年単位で運用成績の良しあしを判断する必要がある。14年10月の基本ポートフォリオの見直しも25年先をにらんだリスクとリターン概念の変化への対応が前提だった。国内外の株式、債券の運用で連戦連勝を続けるのは至難の業。GPIFに資金運用でプラスを続けることを求めるのは過剰な期待ともいえる。GPIFの15年度の運用損失5兆円超を政争の具にするのは浅薄。国民の過剰な期待に便乗したポピュリズム(大衆迎合主義)とも映る。もっとも、基本ポートフォリオ見直しの際に運用で損失が膨らむ可能性があることをきちんと説明しなかった政府の責任も重い。

 GPIFは今年、保有株式の銘柄名、株数、時価総額なども公表する予定だ。しかし、運用に巧みな投資家は手の内を明かすことはない。G・ソロス、W・バフェット…。著名な世界の投資家が相場観を語り始めたのは巨額の資産を築いた後のことだ。彼らはさまざまな媒体を通じ相場観を語るが、市場では「あれは本音と裏腹の自己を有利に導くマーケット・トーク」との評が絶えない。市場は虚々実々の世界。手の内を曝(さら)す投資家は他者からなめられ、カモにされるのがオチ。マーケットで正直さと透明性が過ぎるのは考えもの。GPIFは圧力と期待の狭間(はざま)で、不幸の度合いが増すように思えてならない。

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【プロフィル】加藤隆一

 かとう・りゅういち 経済ジャーナリスト 早大卒。日本経済新聞記者、日経QUICKニュース編集委員などを経て2010年からフリー。66歳。東京都出身。