生産性高め実質賃金改善 日本総合研究所・湯元健治副理事長

政策を問う
(中村智隆撮影)

 10日投開票の参院選は、各党が安倍晋三政権の経済政策「アベノミクス」の是非をはじめ、雇用や税財政など、経済関連の幅広いテーマで激しい舌戦を繰り広げている。それぞれの政策の現状と課題、展望について、各分野の有識者に聞いた。

 「アベノミクス」の金融緩和で円安が進み、2014年4月には消費税率が5%から8%に引き上げられたことで消費者物価が上がり、それに賃上げが追いつかずに実質賃金は伸び悩んだ。日銀が掲げる2%の物価安定目標が実現するなら、実質賃金は下がっていく恐れがある。

 今年の春闘は、安倍政権の呼び掛けもあって3年連続で2%台の賃上げが実現したが、ベースアップ(ベア)は0%台にとどまった。賃上げの動きは一部に限定され、円安の打撃を受ける中小企業などは賃金を上げたくても上げられない状況だ。

 ベアが小幅にとどまった背景には、非正規雇用に対する需要が高いこともある。企業は人件費が正社員の6割程度で済む非正規を欲しがっている。

 日本では、正社員と非正規でかなり似通った仕事をしているのに、時間当たりの賃金の格差があまりにも大きい。全体平均で大幅な賃上げを実現するためには、賃金差を縮小する「同一労働同一賃金」の改革を進めないといけない。

 ただ、何をもって同一労働とみなすかという問題はある。「同じ価値を生み出す労働」という主張があるが、同じ価値をどう測るかなど定義は難しい。

 中長期的には、生産性を高めて、その分を賃上げに回すようにすることが重要だ。成長戦略や構造改革で生産性を引き上げれば、労働力人口の減少で低迷する潜在成長率も向上させられるだろう。

 とはいえ、サービス残業を含めた日本人の労働時間は欧米に比べてかなり長く、生産性は相当低い。長時間労働を是正することが必要だ。

 テレワークや在宅勤務を推進し、時間を節約しつつ、違う働き方でも同じ成果が出せるような環境を整えるべきだ。時間や場所を選ばない多様なスタイルを実現すれば、女性の活躍推進にもつながる。そういう認識が経営者に浸透しないといけない。

 こうした働き方改革は、日本の労働市場をグローバルスタンダードに合わせる試みでもある。(中村智隆)

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【プロフィル】湯元健治

 ゆもと・けんじ 京大経卒。1980年住友銀行(現三井住友銀行)。92年日本総合研究所調査部主任研究員海外チームリーダー。日本総研調査部長、内閣府官房審議官などを経て、12年6月から現職。59歳。福井県出身。

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【用語解説】伸び悩む実質賃金

 実質賃金は賃金の名目の伸びから物価上昇分を除いた指標で、2015年度は前年度比0.1%減と5年連続のマイナスとなった。基本給や残業代などを合計した1人当たりの現金給与総額は0.2%増だったが、指標となる物価が0.3%上昇したため、実質賃金は増加に転じなかった。消費税率8%への引き上げの影響が一巡し、15年度の実質賃金の下落幅は14年度(3.0%)から縮小。16年に入ると物価下落でプラス基調となった。それでも、賃上げの勢いは引き続き力強さを欠いている。