労働市場の抜本改革が必要
政策を問う□大和総研・熊谷亮丸チーフエコノミスト
参院選で「アベノミクスの是非」が問われているが、アベノミクスは「まず成長戦略で企業を元気にして(家計などへの)分配の原資を作り、日本経済を良くする」という、ある意味で常識的な政策だ。基本的な方向性は正しい。実際、企業収益が過去最高に達し、有効求人倍率は約24年ぶりの高水準になるなど労働環境も改善している。一定の成果は上がってきた。
これに対し、子ども手当を中心に「分配」を優先した旧民主党政権下では、景気は全く良くならなかった。ビジネスの足を引っ張る政策が打ち出され、日本企業は「円高」「自由貿易の遅れ」などの「7重苦」に苦しめられた。
安倍晋三政権の問題は、若干、ポピュリズム(大衆迎合主義)に陥りがちであることだ。
アベノミクスの旧「三本の矢」でいうと、1本目の金融政策は、日銀に大きな負担がかかり、黒田東彦総裁が孤軍奮闘して、かなり限界に近いところまで政策対応を行っている。
だが、2本目の財政政策における社会保障制度改革や、3本目の成長戦略における岩盤規制緩和には踏み込めず、先送りしてしまっている。
とくに労働市場の改革は岩盤規制緩和の本丸だ。正規と非正規に二極化した雇用体系や硬直的な解雇ルールなどを改革すれば労働生産性が改善するし、若年層の将来不安は解消される。消費低迷、少子化といった構造的問題の解決につながり、一石三鳥にも四鳥にもなる。
(あらゆるモノをインターネットにつなぐ)「インターネット・オブ・シングス(IoT)」など目を引く目玉政策ばかり掲げて抽象的な「成長戦略」を描くだけでなく、抜本的な改革を進めていかなければならない。
もっとも、今回の参院選で、野党は代替の政策案を示せず、部分的な批判ばかり繰り返している。全ての党が近視眼的に目先の景気にばかり関心を持ち、財政、社会保障、少子化など中長期的に大切な課題は先延ばしだ。経済分野で与野党間に大きな違いはなく、「争点」は実質的にあまりないともいえる。(山口暢彦)
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【用語解説】アベノミクス
2012年12月に発足した安倍晋三政権が掲げる、デフレ脱却と経済再生を最優先する経済政策。当初、柱となる「三本の矢」として「大胆な金融政策」「機動的な財政政策」「民間投資を喚起する成長戦略」を示し、15年9月には新「三本の矢」として「名目国内総生産(GDP)600兆円」「希望出生率1.8」「介護離職ゼロ」を掲げた。とくに奏功したのは日銀の金融緩和で、円安と株高が進み企業収益が改善。今年3月末時点の企業の内部留保は過去最高の366兆円に達した。ただ、アベノミクスの恩恵は中小企業や地方の低所得者などに十分及んでいないといった批判があり、首相自身、デフレ脱却は「道半ば」としている。
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【プロフィル】熊谷亮丸
くまがい・みつまる 東大法卒。1989年日本興業銀行(現みずほ銀行)。2005年メリルリンチ日本証券チーフ債券ストラテジスト、07年大和総研シニアエコノミスト。10年同社チーフエコノミスト、14年同社執行役員チーフエコノミスト、15年から同社執行役員調査本部副本部長チーフエコノミスト(現職)。50歳。東京都出身。
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