マイナス金利政策深掘りを

政策を問う

 □岩田一政・日本経済研究センター理事長

 日銀は大規模な金融緩和を導入した2013年当初、「2年で2%」の物価上昇率目標を掲げたが、今年5月の消費者物価指数(生鮮食品を除く)は前年比0.4%下落した。ただ、もともと政府の成長戦略がうまくいく前提で5年は掛かると思っていたので、想定の範囲内だ。

 その一方、日銀は現在、年80兆円のペースで国債を購入している。民間の金融機関は、担保や運用などである程度は国債を保有しなければならない。日銀は価格をつり上げて買うしかないが、来年半ばには今の規模で買い続けるのが難しくなると思う。

 私は約1年前から「マイナス金利政策を導入し、金融緩和のスキームを変更すべきだ」と唱えてきた。日銀は2月にマイナス金利を導入したが、金融機関は利ざやが圧縮されると反発している。ただ、国債を日銀に高値で売れればトータルではプラス効果になる。また、金融機関の利ざや圧縮分は企業や家計に還元されるため、経済全体ではプラス効果の方が大きい。

 英国の欧州連合(EU)離脱決定のショックを考えれば、日銀が月末の金融政策決定会合で動かないことはあり得ない。だが、国債の買い増しは難しいと考えており、マイナス金利幅の深掘りになるだろう。私は現在の0.1%から0.3%へ広げると推測する。

 2%の達成時期も「17年度中」から「中長期」へと再設定するのが望ましい。何度も先延ばしすれば信頼性は失われる。

 その一方、マイナス金利を有効に機能させるため、日銀が金融機関への貸し出しに、0.1~0.2%のマイナス金利を課す案も検討されるだろう。金融機関は企業への貸出金利をさらに下げる必要に迫られ、効果が出やすくなるからだ。金融機関は歓迎していないようだが、運用資金の調達を預金のみに頼るのではなく、市場調達を含め多様化すべきだ。現金での取引費用を考えると、マイナス1%程度までなら深掘りが可能なはずだ。

 日銀は金融政策を十分やっていると思う。それにもかかわらず、個人消費が伸び悩んでいるのは、成長戦略が不十分だからだ。(藤原章裕)

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【プロフィル】岩田一政

 いわた・かずまさ 東大教養卒。1970年経済企画庁(現内閣府)。東大教養学部教授、内閣府政策統括官などを経て2003年から08年まで日銀副総裁。10年10月から現職。経済財政諮問会議議員などの要職も歴任。69歳。東京都出身。

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【用語解説】伸び悩む消費者物価指数

 消費者物価指数は商品やサービスの価格動向を総合的に示す。日銀は脱デフレを掲げ、前年比上昇率を2%に引き上げようと大規模な金融緩和を導入した。当初は「2年」で達成すると宣言。一時は1.5%まで上昇したが、消費税増税や大幅な原油安で伸び悩んだため、日銀は達成時期の先送りを繰り返した。

 現在は「2017年度中」としているが、急速な円高で輸入物価の値下がりが続き、2%は遠のくばかりだ。日銀は月末に公表する「経済・物価情勢の展望(展望リポート)」で新たな物価見通しを示す。