トランプショックで世界経済激震
高論卓説■大統領選まで3カ月、リスクに備えよ
米共和党の大統領候補になったドナルド・トランプ氏は「米国第一主義」を掲げ、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)には署名しないと明言した。外交・安全保障政策でも従来の政策を大きく変更する可能性を示し、北大西洋条約機構(NATO)は時代遅れと指摘。11月の本選で当選した場合、市場にショックが走る可能性が高まってきた。脆弱(ぜいじゃく)な世界経済は「トランプショック」を吸収できるのか。年後半の大きなポイントになりそうだ。
「グローバル主義よりアメリカ主義がわれわれの信条」と主張したトランプ氏は、正面切って「自由貿易の原則」を否定していないものの、TPPには署名せず、米国の労働者を傷つけるような貿易協定は、個別に再交渉するとの方針を打ち出した。
保護主義的な政策を今後、次々打ち出していくような展開になれば、マーケットは身構えることになるだろう。
また、今回の共和党大会で採択された政策綱領は、1933年銀行法(グラス・スティーガル法)の復活を盛り込んだ。1929年の大恐慌後に銀行と証券の業務を厳格に分ける同法が施行されたが、1999年にクリントン元大統領が同法の廃止法案に署名した。
米金融界では、同法の復活は金融機関に多くの制約を課し、収益圧迫要因になると強く警戒する声が多い。
外交・安保政策でも、同盟国に対し、より多くの軍事的コストを負担することをトランプ氏は求めている。NATO体制や日米安保体制などの抜本的な見直しまでは言及していないものの、戦後70年間にわたって構築されてきた米国中心の「体制」が、大きな変革期に差しかかる可能性もある。
トランプ大統領が実現した場合、政治、外交、経済など多方面で大きな変化が起きそうだ。「大統領になれば、危ないことはしないはず」という玄人(くろうと)筋の話はよく耳にする。
だが、トランプ氏が今の体制の大変革を目指しているなら、想定以上のショックが発生するリスクを意識せざるを得ない。
一方、世界経済は、英国の欧州連合(EU)離脱決定直後の混乱から立ち直ったようにみえる。
しかし、今のリスクオン相場は、年内の米利上げなしという大前提に立っている。
もし、米連邦準備制度理事会(FRB)が年内利上げの可能性をにじませれば、株価が急反落する可能性を否定できない。
そこには、ここ数年、一部の学識経験者や政策担当者が仮説を提示し、次第に賛同者が多くなってきた米経済の潜在成長率と生産性の低下基調という問題が存在する。
脆弱性を抱えた経済構造の下で、金融・資本市場に「ショック」が発生すると、想定を超えて経済に打撃が加わり、2008年9月のリーマン・ショックの直後のような混乱が生じるリスクが高まる。
米大統領選の投票日まで3カ月余り。今のうちにトランプ氏の当選時に何が起きるのかシミュレーションし、ろうばいしないような準備が必要ではないか。
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【プロフィル】田巻一彦
たまき・かずひこ ロイターニュースエディター 慶大卒。毎日新聞経済部を経てロイター副編集長、コラムニストからニュースエディター。57歳。東京都出身。
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