よろめく世界経済 新興国減速で視界不良続く

論風

 □青山学院大学特別招聘教授・榊原英資

 2015年の世界経済の成長率は3.1%と、14年の3.4%から1割近く下降している。米国をはじめとする先進国の国内総生産(GDP)成長率はそこそこ順調(15年は米国が2.4%、ユーロ圏が1.5%、英国が2.2%、日本が0.5%)なのだが、新興市場国および途上国の15年の成長率が前年の4.5%から4.0%まで下がってしまったのだ。

 ◆資源価格が打撃

 主な原因は石油価格など天然資源価格の下落。米国産標準油種(WTI)は14年の1バレル=93.13ドルから15年は48.75ドルまで下がっている。鉄鉱石価格も14年は1トン=96.84ドルだったのが、15年には55.21ドルまで下落。石油価格は16年1~2月にさらに下がり、5月に入って反転しているが、5月末でも50ドル前後だ。

 天然資源価格の下落で大きな打撃を被ったのが、輸出国であるロシアやブラジルなど。15年のロシアの成長率はマイナス3.7%、ブラジルはマイナス3.8%だ(14年のロシアの成長率は0.6%、ブラジルは0.1%)。

 天然資源価格の下落は輸入国である多くの先進国にはプラスで、15年はそれぞれ米国が2.4%、ユーロ圏は1.6%の成長率を達成している(14年の米国の成長率は2.4%、ユーロ圏は0.9%)。

 ただ、世界経済の低成長はしだいに米国にも影響を及ぼし、米供給管理協会(ISM)の製造業景況指数は16年に入って下降に転じている。国際通貨基金(IMF)も16年1月の時点では米国の16年の成長率を2.6%としていたが、4月には0.2%下方修正して2.4%としている。先進国全体でも1月の2.1%から4月には1.9%に下げているのだ。原油価格など天然資源価格は若干戻してきているが、前述したように大きく反転しているという状況ではない。

 IMFのラガルド専務理事は最近の講演で「回復はあまりにも緩慢かつ脆弱(ぜいじゃく)で、長引く低成長が、多くの国の社会構造、政治構造に大きなダメージをもたらすリスクをはらんでいる」と警告している。

 ◆中国の成長率に疑問の声

 ロシアやブラジルだけでなく、中国の成長率が急速に低下していることも懸念材料だ。中国は1980年から2011年までは年平均で10%超の成長率を達成してきたが、12年から成長率が低下し(12年7.70%、13年7.70%、14年7.30%)、15年には6.90%と6%台まで下がってきている。

 IMFによる16年4月時点の推計では16年はさらに6.49%まで下落すると予測されている。しかも、こうした予測にも疑問を呈する向きも少なくない。というのは、輸入が14.1%も減っているのに、GDPが6.90%も伸びているのは不自然だからだ。

 貨物輸送量、電力消費量、銀行融資残高から構成されるいわゆる「李克強指数」で試算すると、実際の成長率は6.9%の半分以下の2.9%だというのだ。いずれにせよ、高成長を続けてきた中国経済が失速しているのは間違いがないのだろう。

 ◆好調インドにも影

 いわゆるBRICS諸国(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)の中で好調なのはインドだけだ。1980~2013年のインドの年平均成長率は6.21%だったが、14年から加速し、14年には7.24%、15年には7.34%の成長率を達成している。

 IMFの予測によると、16年はさらに加速し7.45%になるという。しかし、世界経済全体が減速する中でいつまでインドだけが高成長を続けられるかは定かではない。BRICS諸国の中で南アフリカも成長率を落としており(15年1.28%)、世界経済の先行きは不透明だ。

                   ◇

【プロフィル】榊原英資

 さかきばら・えいすけ 東大経卒、1965年大蔵省(現財務省)入省。ミシガン大学に留学し経済学博士号取得。財政金融研究所所長、国際金融局長を経て97年に財務官就任。99年に退官、慶大教授に転じ、2006年早大教授、10年4月から現職。神奈川県出身。75歳。