疑念を拭えぬ中国の「GDP偽装」 高額紙幣の1割が偽造とも、「だまされた方が悪い」国なのか

 

 □【社説で経済を読む】産経新聞客員論説委員・五十嵐徹

 在中国日本大使館が、ホームページに「中国での偽札に関するQ&A」というコーナーを設けて、在留邦人や日本人旅行客に注意を促している。

 そのまま紹介すると、「中国国内において偽札がかなり多く出回っています。大量の偽造紙幣を持った運び屋を検挙した、との報道も目にします」とし、以下の具体例まで挙げている。

 「たとえばタクシー料金支払い時に」「運転手が100元札(現レートで約1600円)を受け取った後、手元で偽札にすり替えた上で、『これは偽札なので他の札を』などと言って正規の札と引き換えに偽札を渡す」「何枚も取っかえ引っかえ渡し、結局10枚とも偽札にすり替えられてしまったという話も」あるという。

 大使館の注意喚起は2012年10月26日付だが、つい最近も産経新聞外信面のコラムで、赴任後間もない北京特派員が、まったく同じ被害にあったと書いていた。偽札の流通は、相も変わらず日常茶飯事なのだろう。

 ◆1割は偽造紙幣か

 中国では、最高額紙幣の百元札のうち1割は偽造だとする説もある。さすがに昨年11月から新紙幣への切り替えを始めたが、最新の偽造防止技術を駆使したはずの新紙幣も、半年も経ずして早くも偽札が現れたと報じられていた。

 中国といえば、コピーや偽物文化の代名詞にもなっている。もはや「だまされた方が悪い」が通り相場だ。だが、経済統計まで偽造がまかり通るようでは、笑い事で済まされない。

 中国の国家統計局が7月15日に発表した2016年4~6月期の実質国内総生産(GDP)は、前年同期比6.7%増で、前期比では横ばいにとどまった。伸び率は2期連続でリーマン・ショックの直撃を受けた09年1~3月期以来、7年ぶりの低さにとどまったことになる。だが、これとて専門家からは、「どこまで実態を正直に反映した数字なのか」と疑惑の目で見られている。

 中国政府は16年の成長率目標を6.5~7.0%に設定している。目標はかろうじてクリアし、成長率は4四半期ぶりに下げ止まったものの、下振れ圧力はなお強い。

 好むと好まざるとにかかわらず、いまや世界経済の主役に躍り出た中国経済だが、その前途は不透明なままだ。抜本的な景気てこ入れの手を打たなければ、今年後半にも目標レンジを下回る可能性がある。

 経済協力開発機構(OECD)の最新見通しによれば、16年の世界の実質経済成長率は15年と同水準の3.0%にとどまる。貿易の実質伸び率も2.1%と一段の減速が見込まれている。

 先ごろ中国で開かれた主要20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議も「世界経済の回復は望ましい水準よりも弱いままだ」と強い懸念を示した。

 共同声明は、成長促進に向け、各国が財政・金融政策、構造改革のすべての政策を総動員すると宣言したが、注目されたのは、市場をゆがめる政府補助金に強い懸念を示したことだ。「中国鉄鋼の過剰生産問題」を念頭に置いたものだ。

 中国の成長率低迷について読売は7月18日付社説で、「国有企業や、地方政府の関連企業などで、実質破綻しながら公的補助で生き延びている『ゾンビ企業』問題も深刻化している」と指摘。「公式統計では、銀行の不良債権残高は1兆元余だが、実態は数倍に上るという見方も根強い」と発表数字にも疑問を投げかけた。

 ◆政府内に説明矛盾

 興味深かったのは日経の7月16日付社説だ。「中国経済の『L字』予測が示す不透明感」と題し、「習近平国家主席の経済ブレーンとみられる人物が5月、共産党機関紙、人民日報で語った中身」を紹介している。

 この経済ブレーンは、中国経済について、「不可能なのはV字型回復だ。それはL字型の道をたどる」「数年は需要低迷と生産能力過剰が併存する難局を根本的に変えられない」と述べたという。

 日経によれば、これは、李克強首相が中国経済について「楽観しており、自信がある」とした発言と、明らかに「ニュアンスが違う。経済政策をめぐり路線対立がないのか。これも懸念材料だ」という。

 中国とすれば、国有企業改革には、ゾンビ企業の整理が欠かせないが、不良債権問題が表面化すれば、金融不安を招きかねない。「データ偽装」の疑惑をもたれる理由だが、実態を覆い隠すことで対応が遅れれば、その結果こそ重大だ。