小池知事に“現代の薩長同盟”期待 東京・大阪から日本変革を
高論卓説つい先月の話だが、夏の夕立のように、サーッと参院選と都知事選が終わった。
前者は、表面的には官邸の思惑どおりの与党圧勝だが、先月の本コラムでも述べた通り、激戦区の勝敗などを見るに、実質的には、野党もかなり健闘した。
後者では、自民党の小池百合子氏が勝利を収めた。官邸・党執行部・都連は、度胸満点の小池女史に終始翻弄され大敗北を喫したと言っていい。約4年前の党総裁選挙で、安倍晋三氏に敗れた石破茂氏を支持した小池氏は、女性活用の掛け声にもかかわらず、主要ポストに就けずに不遇をかこっていたが、さすがの勝負勘で面目を取り戻した。
折しも、金融緩和策が限界を露呈し始め、円は1ドル=100円近くに高止まり、1年前には2万円超だった株価は1万5000~1万6000円台に低迷してアベノミクス終焉(しゅうえん)論がささやかれる中、主要閣僚以外の人事が一新されて新内閣がスタートした。新たな経済対策・働き方改革など、威勢は良いが、流れを一変させる勢いはない。
最近の政治動向をごく簡単に整理すると右の通りだが、思い切った打ち手が見えずに停滞感が漂う安倍政権に比して、いやが上にも小池都政への期待が高まる。都のため、ひいては国のため、国会議員出身の小池氏はいかなる手を打つべきか。
荒唐無稽に聞こえるであろうが、あえて申し上げると、現代の薩長同盟たる新同盟の結成、すなわち、東京の宿敵たる大阪と手を組むことが肝要だと思う。具体的には「大阪維新の会」との連携である。
現状、大阪府知事・大阪市長は維新のポストであり、府議会・市(議)会でも、維新は単独政党として最大議席を有する。大阪での参院選の結果を見て、あるいは、大阪で複数の有識者と意見交換をして驚いたが、橋下徹氏が表舞台から去った後も維新人気は大阪ではかなり根強く、むしろ、自民党の方が崩壊しつつあるのが実態だ。
維新はもともと、「地域のことは地域で考えて実行する」という精神で発足しており、「国と対立しても、地域の成長戦略は自ら立案して実行する」ことを標榜(ひょうぼう)していた。特区の多用は本来、大阪で期待された動きだ。
もちろん、地域政党や「ローカルマニフェスト」という考え方自身は以前から世をにぎわしており、実際にさまざまな動きがあった。ただ、これらは多分に市民運動的で、「情報公開」や「住民参加」といった「行政におけるデュープロセスの実現」という色彩が濃かった。
維新の地域政党としての斬新さは、大阪経済の低迷を前に「国の成長戦略しか考えない内閣、経済産業省には頼らない。自分たちで戦略を考えて実行する」という実利志向である。観念的・手続き的住民自治ではない。ただ、公務員特権などの地域行政の暗部と闘う中で、国政展開・国のガバナンス改革を強調してきた結果、「大阪の成長戦略」は吹き飛んでしまった感がある。
今こそ維新の本来の流れを東京に持ち込み、小池知事を中心とした新グループが「国と対立してでも、東京の成長は東京が考えて実行する」と維新との協力を持ちかけ、“犬猿の仲”的な東京と大阪が手を組み、現在の薩長同盟とも言うべき「東阪同盟」を結ぶべきだ。神戸や長崎などでその萌芽(ほうが)が見える「新型地域政党」の大連合ができれば、幕末の「雄藩連合」のように各地に広がる可能性がある。
そして、実は、停滞する安倍政権にとってもこの動きは有り難いはずだ。言うまでもないが、維新と安倍政権は、考え方も人的にも実は距離が近い(渡辺喜美氏の維新入りも一つの鍵)。「岩盤規制にドリルを打ち込むこと」ができずに悶絶(もんぜつ)している政権にとっては大きな突破口になりうる。「成長戦略の切り込み隊長」たる世耕弘成経産相や経産省改革派と小池知事・維新が手を組むのも本来は利害が一致する。「既得権益者」が隠れた共通の敵だ。
最低でも、小池知事にとって「東阪同盟」は、来年の都議会議員選挙を控える中で、“伏魔殿”的な自民党都連への牽制(けんせい)球になるわけで、自身の政策実現にとって大きな武器になる。
もちろん、実際にはかなり難度の高い大技であり、都知事選への出馬に加えての、乾坤一擲(けんこんいってき)の大勝負になることは間違いないが、メダルラッシュに沸くリオデジャネイロ五輪にあやかって書くと、ぜひ、小池知事には歴史に残る2つ目の金メダルを目指していただきたい。
【プロフィル】朝比奈一郎
あさひな・いちろう 青山社中筆頭代表・CEO 東大法卒。ハーバード大学行政大学院修了。1997年通商産業省(現経済産業省)。プロジェクトK(新しい霞ヶ関を創る若手の会)代表として霞が関改革を提言。経産省退職後、2010年に青山社中を設立し、若手リーダーの育成や国・地域の政策作りに従事。中央大学客員教授。43歳。
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