日本の水陸両用飛行艇「US2」を追い抜け! 中国・最新鋭機が世界を席巻する?

 
海上自衛隊の水陸両用飛行艇US2(海上自衛隊のホームページから)

 南シナ海に関する自らの主張を全面否定したオランダ・ハーグの仲裁裁判所の裁定は「紙くず」に過ぎないという態度を取る中国が、海洋進出に向けた新たな武器を獲得した。自主開発した水陸両用飛行艇AG600がそれだ。AG600を人工島に配備すれば、中国は南シナ海全域を簡単に制圧できる。映像では、その機体は海上自衛隊の飛行艇US2にそっくりにみえるが、中国国内では「この分野でも世界をリードしてきた日本を追い抜く」との声が出ている。

 南シナ海を制圧する飛行艇

 中国からの報道などを総合すると、中国国営企業の中国航空工業集団は7月23日、広東省の珠海市でAG600を公開した。7年かけて開発したAG600は陸上と水面から発着できる水陸両用飛行艇で、機体のサイズは全長37メートル、翼幅39メートルと小型ジェット機のボーイング737とほぼ同じだ。しかし、水陸両用飛行艇としては世界最大となった。

 最大離陸重量は53トンで、航続距離は4500キロ。最大12時間の飛行が可能で、最高速度は時速500キロに達し、波の高さが2メートルの条件下でも着水が可能だ。南シナ海をにらむ海南島から飛べば、その全域で任務を遂行することができる。

 飛行艇開発で世界をリードした日本

 一方、四方を海に囲まれた日本は大東亜戦争前から飛行艇の分野で世界をリードし、川西航空機(現在の新明和工業)が九七式飛行艇や二式大艇を開発した。とくに最高時速465キロ、偵察時の航続距離が8200キロ、20ミリ機関砲5基、7・7ミリ機銃4基を装備した二式大艇は「空飛ぶ戦艦」とも呼ばれ、太平洋戦域で相まみえた米軍を驚かせた。

 この飛行艇開発の技術は戦後も継承され、新明和工業は水陸両用の飛行艇として日本で初めてとなったUS1を開発。1975年に1号機が完成した。

 新明和工業はUS1の性能をアップした新たな水陸両用飛行艇の開発に着手。2003年12月に初飛行に成功し、2007年3月から運用を開始。US2と命名された。

 群抜く性能誇る海自US2

 海上自衛隊が保有・運用するUS2は全長33メートル、最大離陸重量47・7トン、航続距離は4500キロ。最大の特徴は3メートルの高波でも着水が可能で、短距離での発着もできる。水陸両用飛行艇としてはカナダ・ボンバルディア社のCL415(双発プロペラ)、ロシア・ベリエフ社のBe200(双発ジェット)があるが、着水可能な波の高さがそれぞれ1・8メートル、1・2メートルに過ぎず、US2の能力の高さが分かる。

 中国では開発中からAG600への関心が高く、2014年にメディアが相次いでAG600を紹介する記事を出したが、いずれもUS2を意識したものだ。中には「中国はこの機(AG600)によって、日本の飛行艇US2を一気に抜いて、世界最大の飛行艇製造国になる」と強い期待を寄せたものもあった。

 中国は特殊部隊の奇襲用に利用?

 中国メディアはAG600について、サッカー場ほどの広さに一気に12トンの水を空から放水し、森林火災などの災害に対応でき、海難事故などでは一度に50人を救助できる、と伝えている。

 ただ、AG600は上空から潜水艦の動向を警戒・監視し、攻撃する対潜哨戒機など軍用機として利用されるのは確実だ。一度に50人が救助できるなら、完全武装した多くの特殊部隊隊員を搭乗させて、紛争地に派遣することも可能になる。

 要するにフィリピンやベトナムと領有権を争っている南シナ海のスプラトリー(中国名・南沙)諸島やパラセル(中国名・西沙)諸島にAG600を飛ばして、武装兵に急襲させることができる。事実、中国の大手ポータルサイト「新浪網」は2015年7月に「中国最大の飛行艇は南シナ海奇襲に用いる。特殊部隊を送って島を奪取」というタイトルの記事を掲載した。

 武器輸出解禁でUS2を世界に売り込む日本政府

 一方、日の丸飛行艇US2の性能は世界各国から注目を集めており、事実上の武器輸出解禁に踏み切った日本政府はUS2の売り込みを行っている。2015年5月に日本で戦後初めて開かれた国際防衛見本市では、横浜市の会場に置かれたUS2の模型が来場者を出迎えた。

 売り込み先としてもっとも有力視されているのがインドだ。インドは国境紛争を抱え、海上交通路確保を名目にパキスタンやスリランカなどインド洋周辺諸国との連携を深める「真珠の首飾り戦略」を進める中国の脅威に直面しており、日本とインドの軍事協力強化は必然的な流れといってもいい。

 2016年3月にインドの南部ゴア州パナジ近郊で開かれた防衛展示会には新明和工業も参加。インドのパリカル国防相が新明和工業のブースを訪れた。また、同じ年の6月にシンガポールでパリカ氏と会談した中谷元・防衛相はUS2の輸出交渉を続けることで一致した。

 難航する日本とインドの輸出交渉

 ただ、民主党政権下の2011年から始まったUS2の輸出交渉は、5年近く経つが道筋は明確になっていない。

 具体的な交渉内容は明らかになっていないが、日本の航空機製造技術を吸収したいインドはライセンス料を支払ってUS2を生産することを求めていたのに対し、ライセンス生産をてこにインドが軍事技術を取得してしまうのではないかと判断した日本側は部品を輸出して、インドの現地で組み立てるノックダウン生産方式を提案したなどと伝えられた。

 2016年に入ってからも、インドが方針を転換し、完成機の輸入に切り替えたなどの情報が飛び交った。こうした点を踏まえてかアジア太平洋地域の安全保障問題を取り上げる「THE DIPLOMAT」は2016年3月に「Is the Japan-India Military Aircraft Deal Dead?」というタイトルで、インドへのUS2輸出交渉が難航しているとの記事を掲載した。

 豪州への潜水艦売り込み失敗の二の舞となる?

 中国が自主開発したAG600は、まさにこうした情勢下で公開された。すでに17機を受注しており、ニュージーランドやマレーシアなどが関心を示しているという。

 武器輸出をめぐっては、オーストラリアの次期潜水艦受注競争で、当初は日本が有利とされながらフランスに敗北した苦い経験がある。日本政府は、通常型潜水艦では世界トップクラスとされる海上自衛隊の「そうりゅう型」潜水艦を売り込もうとしたが、軍事技術移転や現地の雇用問題などが絡み、豪州は武器輸出のノウハウを豊富に持つフランスを選んだ。

 US2が世界トップクラスの性能を誇るのは紛れもない。だが中国は、日本が武器輸出三原則にがんじがらめになっていた間、アジアやアフリカなどへの武器輸出の実績を積み重ねてきた。最近ではタイが中国から通常動力型潜水艦3隻を購入することを決めている。うかうかしていると飛行艇のセールスでも中国のAG600が世界を席巻していたということにもなりかねない。