金融機関の“いばらの道”続く マイナス金利、なお深掘りの可能性

高論卓説

 リオ五輪に熱狂し、睡眠不足に陥った方も多いだろう。日本選手の活躍は、獲得したメダルの数に如実に表れているが、なにより驚かされたのは、これまでメダル獲得は不可能と思われていた競技で見事栄冠を手にしたことではないだろうか。バドミントン女子ダブルスで初の金メダルに輝いた高橋・松友ペアの大逆転劇はじめ、水泳の萩野選手、金藤選手の金メダル、そして陸上男子400メートルリレーの銀メダルは圧巻だった。東京五輪ではトラック競技で日本選手が金メダルを獲得することも夢ではないかもしれない。体格で勝る海外選手には到底勝てないとする固定概念は完全に払拭(ふっしょく)された。

 過去の固定概念がことごとく崩れつつあるのは金融界も同じだ。特に日銀による異次元緩和が開始されて以降、金融の世界は風景が一変した。2月から導入されたマイナス金利はその象徴と言っていい。

 毎月80兆円もの国債を日銀が購入する異次元緩和以降、イールドカーブ(利回り曲線)は限りなく平坦(へいたん)化し、銀行は利ザヤの確保に苦慮している。利回りがマイナスとなった国債を保有することは自殺行為に等しく、「国債を持つことはババ抜きゲームのようなもの」(メガバンク幹部)とさえ言われる。

 一方、いくら政府や日銀が個人や中小企業に融資を伸ばせと言っても限りがある。実際、マイナス金利導入以降、変動金利型のシンジケートローン(協調融資)では適用金利がゼロになるものも出ている。また、地銀の主力取引先である地方公共団体融資の入札金利も0.1%まで低下している。

 苦肉の策として金融機関がこぞって手を出しているのが、これまで多くの投資家が敬遠してきた高利回り社債や、東京五輪を当て込んだ大都市圏における不動産向け融資などで、「地元での融資は伸びていない」(地銀幹部)というお寒い状況にある。地銀の中には、預金集めにブレーキをかけているところもあるほどだ。

 しかし、日銀はマイナス金利の手を緩める気配はない。黒田東彦日銀総裁はフジサンケイビジネスアイの単独インタビューで、「欧州のいくつかの中央銀行は導入しているマイナス金利の程度は日銀よりも大きい。技術的にはさらに引き下げる余地があることは間違いない」と語っている。日銀は9月20~21日の政策決定会合で、マイナス金利付き量的・質的金融緩和について「総括的な検証」を行う予定だが、そこでマイナス金利がさらに深掘りされる可能性は捨てきれない。

 一方、金融庁は、マイナス金利導入に伴う利ザヤの縮小などにより、3メガバンクは今年度の業績が3000億円程度の減益要因となるとの試算をまとめ、日銀にマイナス金利政策を再考するよう働きかけている。「金融庁は究極的に日銀がマイナス金利を撤回することを望んでいる」(金融庁関係者)といわれる。

 しかし、黒田総裁は、「日本の金融機関は十分な資本を持つ。(マイナス金利で)金融仲介機能に大きな影響が出るとは懸念していない」(フジサンケイビジネスアイインタビュー)と意に介していない。

 9月の「総括的な検証」で、何が飛び出すのか。市場では日銀が金融機関への「貸出支援基金」にマイナス金利を適用するのではないかとささやかれており、短期プライムレートに引き下げ圧力が加わりかねない。そうなれば金融機関の収益はさらに圧迫される。いばらの道は続く。

【プロフィル】森岡英樹

 もりおか・ひでき ジャーナリスト。早大卒。経済紙記者、米国のコンサルタント会社アドバイザー、埼玉県芸術文化振興財団常務理事を経て2004年に独立。58歳。福岡県出身。