国産バイオジェット燃料導入へ インフラ整備を具体化、CO2対策の切り札に

 
ミドリムシ由来の国産バイオジェット燃料計画をアピールするユーグレナの出雲充社長(左から3人目)ら。国産化の実現に向け期待が高まっている=2015年12月、羽田空港

 藻類などを原料にした国産の航空機向けバイオジェット燃料の導入を目指す経済産業省や国土交通省、航空大手などの官民検討委員会は、2020年東京五輪・パラリンピックでのお披露目を目指し、羽田空港でインフラ整備を進める方針を打ち出した。バイオ燃料は環境負荷が低く地球温暖化対策のため活用が期待されているが、価格の引き下げや量産体制の確立が大きな課題となっており、17年度末までに関係者が合意できる整備計画の具体化を図る方針だ。

 航空業界の“切り札”

 「航空業界は二酸化炭素(CO2)削減の必要性が高まっており、(バイオジェット燃料の)国産化で新規産業も創出できる。東京五輪を一里塚として先進的な取り組みを世界にアピールしたい」。経産省幹部は8日の検討委でこう強調した。

 国産バイオジェット燃料の実用化は20年代後半を見込むが、政府と関係業界は東京五輪開催時にバイオ燃料で航空機の試験飛行を行う考え。そのため、官民で熱効率が高い藻の研究開発を進めるなど燃料の生産体制を確立するとともに、羽田空港で燃料受け入れや品質確認などができる施設を整備する予定だ。

 バイオジェット燃料は現在1リットル当たり3000円程度と原油由来のジェット燃料の約30倍も高価だ。政府は試験飛行で国内外の注目を集めることで導入を加速し、量産効果を生み出すことで価格を引き下げたい考え。

 ただ、20年はあくまで実用化に向けた前段階にすぎない。航空業界が希望する国産燃料の供給想定量は年間百数十~千数百キロリットル程度にとどまり、製油所の1回当たりの生産規模(1万~2万キロリットル)にはるかに及ばない。

 このため、製油所は専用の製造ラインなど設備の増設・改造に数億円が必要になる。貯蔵タンクの確保や出荷体制の見直しも加わって稼働コストが大幅に上昇するため、国産バイオジェット燃料は当初、相当高額になる見通しだ。実用化の過程で、買い取り費用の負担を誰がどう行うかが今後の論点になる。

 欧米では製油所など燃料製造事業者が政府の助成を受けてプロジェクトを進めているケースが多く、国内でも同様の枠組みが採用される可能性が高そうだ。

 バイオ燃料は主に光合成で成長する植物を原料としており、生育段階でCO2を吸収するため、燃やしても地球上のCO2総量は増えない扱いになる。

 温暖化対策の新たな国際枠組み「パリ協定」では、全世界の国に対し今世紀後半に温室効果ガス排出量を実質ゼロにするよう求めた。こうした温室効果ガス削減に貢献するため、国際民間航空機関(ICAO)は20年以降、CO2排出を頭打ちにする目標を掲げており、航空業界が対策の“切り札”とするのがバイオジェット燃料の導入だ。

 欧米では既に取り組みが進んでいるが、国土が狭い日本では原料の確保にも課題があり、使用例は日本航空が09年に試験飛行で用いるなど数回にとどまる。だが、バイオベンチャー「ユーグレナ」がミドリムシ由来のバイオジェット燃料を20年までに実用化すると発表するなど導入に向けた機運は高まっている。

 「五輪ありき」計画

 バイオジェット燃料の製造から航空機に給油するまでのサプライチェーン(供給網)整備には最低2年かかるといわれ、東京五輪までに対応を済ませるとなれば18年度には計画に着手する必要がある。政府と関係業界は17年度内に給油関係事業者や航空会社への説明を進めると同時に、インフラ整備や輸送方法の具体化に向けた検討を急ぐ。

 ただ、給油拠点の羽田空港は東京五輪で世界の選手団を迎える日本の玄関口になるうえ、新滑走路の建設で土地も手狭になる。検討委では国交省から「羽田決め打ちではなく幅広く検討してほしい」と要望が出るなど、政府も一枚岩ではない。

 また、官民の期待を集めるユーグレナも、燃料を製造する実証プラントの設計段階で課題が見つかったとして、12日に稼働開始時期を18年前半から19年前半まで延期することを発表した。

 バイオジェット燃料の導入計画は「東京五輪ありき」で進められているため、スケジュールの遅れは命取りだ。もし失敗すれば、五輪のお祭りムードだけでなく、その後の国産燃料実用化に向けた取り組みにも水を差しかねない。政府や関係業界が協力関係をいかに構築できるかが問われることになりそうだ。