「禁酒法」施行で税収減 印ビハール州、社会問題が噴出
ルピーの世界非常に厳しい「禁酒法」が施行されたインド東部ビハール州で、税収減によるとみられる公務員への給与未払いや、密造酒を飲んだことによる死亡事件など社会問題が噴出している。同州政府は税収不足を補うため、付加価値税(VAT)を上げる方針で今後、市民の不満が一層高まる恐れがある。
◆教員への給与未払い
同州政府は2014年度の税収2075億ルピー(約4150億円)のうち、約20%の400億ルピーを酒の販売に頼っていた。しかし、禁酒法の施行により、この税収がごっそりなくなった。同州は薬を含む多くの物品についての付加価値税を14.5%から15%に上げることなどで、税収の15.9%増をもくろむが、南グジャラート大のマドスダン・ラジ准教授は「達成できれば、大成功というところだろう」と冷ややかにみている。
昨年度の同州の財政赤字は前年度比で5.85%増となり、全州平均の2倍近い。工業部門の成長率は4.9%と前年度の12.9%を大きく下回っており、ラジ准教授は「税収減は、最貧州である同州での人材開発に打撃を与えることになる」と指摘している。
その兆候は既に顕在化している。インド紙ビジネス・スタンダードによれば、学校の教員に払う給与が今年度に入り、4カ月以上も未払いの状態が続いている。
ある教員は同紙の取材に「昨年の州議会選挙の前に、政府は給料を上げてくれた。しかし、今は支払いが不規則になっている」と訴えた。低カーストの技術系学生に対する奨学金(1万5000ルピー)も最近、支給が停止されたという。
失業者対策も進んでいない。政府は、閉鎖を余儀なくされた酒店の経営者に対し、牛乳を専売店で販売する州政府の免許を与えることにしたが、新たな仕事はあまり人気がないようだ。
ヒンズー紙によれば、ある元酒店経営者は「今まで、1カ月に10万ルピー以上の稼ぎがあった者に、2000ルピーの月給で我慢しろと言っているようなものだ」と不満を漏らした。
◆酒の密売常態化
最近インドでは、牛乳の販売は専売店を通じてではなく、パック入りの商品を一般の店舗で行う形態が拡大しており、旧態依然とした政府の許認可の下での仕事は失業者の目には魅力的に映っていない。同紙によれば、元酒店経営者は、アイスクリーム店や菓子店などの経営に活路を見いだそうとするケースが多いという。
酒の密売が常態化したことによる、悲惨な事件も起きた。PTI通信によれば、州内で今月16日、密造酒を飲んだ市民16人が吐き気をもよおすなどした後に死亡した。酒を売った男はその後、逃亡先で逮捕された。事件現場を警察が捜索していたところ、地中に隠された550リットル分の密造酒が見つかったという。
インドでは、安価な密造酒を飲んだ人が中毒症状を起こして被害に遭うケースが少なくないが、同州では合法な酒の販売がなくなったため、今後もこうした事件が起きることを懸念する声も上がっている。
同州では今年4月、酒の販売はもちろん所持も禁止した「禁酒法」が施行された。販売は最高で終身刑、飲酒は最高で懲役10年に処せられる。当局は、厳しい措置で対応しており、これまでに違反者約1万1000人を逮捕している。
人口1億人余りを抱え、国内最貧の同州では、飲酒が夫による家庭内暴力や経済的困難を助長しているとして市民団体が長年、禁酒法の制定を訴えていた。(ニューデリー 岩田智雄)
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