「天国への階段」イントロは平凡? 2匹目のドジョウ狙い…訴訟甘くはなかった
ロック史上、最も有名なフレーズの一つ『天国への階段』(1971年、レッド・ツェッペリン=英国)のイントロ。盗作疑惑が持ち上がり訴訟になったが、作曲した元メンバーのジミー・ペイジ氏は否定し、勝訴した。「昔からある珍しくもない旋律。盗むというほどのものでもない」というのが認められた主張のあらましだ。その平凡な旋律は、年間10億円規模の著作権収入を生むとされ、盗作を訴えた原告側はあきらめていない。
確かにそっくり
元祖『天国への階段』として浮上したのは、60年代に活動した米国のロックバンド、スピリットの楽曲『トーラス』(67年)。同バンドのギターリスト、故ランディ・カリフォルニア氏(本名ランディ・ウルフ)が作曲した。
訴訟は2014年にロサンゼルスの裁判所に提起され、大きな注目を集めた。米CNNは実際に2曲をギターで弾き比べて紹介。いずれも和音(コード)を分散して弾くアルペジオという手法で、本当によく似ている。法廷でも当然、2曲が流された。
ロイター通信によると、原告側は、ツェッペリンとスピリットの両バンドは、『天国への階段』が発表される前に、一緒にツアーをしたことがあると指摘。ペイジ氏は『トーラス』を耳にしているはず、と主張した。
今年7月に出廷したペイジ氏は『トーラス』から旋律を盗んだり、ヒントにしたりしたことはないと否定。同曲を収録したスピリットのレコードは持っているが、訴えを起こされるまで「ほとんど聴いた覚えがない」とした。
よくあること
ペイジ氏はしかし「確かに2曲のコード進行はとても似ている。どこにでもあるものだから」とも述べ、64年のミュージカル映画『メアリー・ポピンズ』の曲にも「似ている」とした。ペイジ氏側の弁護士が証人として呼んだ専門家は、これらのコード進行について「300年もの昔から多くの大衆音楽で使われている」と述べた。
場外からも「そんなのよくあること」との声が。
ハードロック界のカリスマ、オジー・オズボーン氏は米ローリング・ストーン誌のインタビューで、そっくりな曲はほかにもあるとして具体例を挙げた上で「訴えたりはしないものだ」と原告側を批判した。
ペイジ氏、エリック・クラプトン氏と並び、三大ギターリストの1人と称されるジェフ・ベック氏は、米ビルボード誌のインタビューでチクリとやった。問題のコード進行は「これまでもたくさん使われてきた」としながら「あれほど象徴的に使われたことはなかった」。『天国への階段』はお手軽に作った曲とでも言いたげで、ペイジ氏の勝訴を「ラッキー」と表現した。
2匹目のドジョウはいなかった
原告が求めたのは『天国への階段』の作曲者クレジットにカリフォルニア氏の名前を入れること、そして当然、お金だった。
業界誌の推計によると、同曲のロイヤルティー収入は08年時点で累計5億6千万ドルに上る。昨年1年間で、ツェッペリンの元メンバーと遺族らは9百万ドル(約9億円)以上の収入を得たとみられている。
実は『天国への階段』訴訟を扱った裁判所は昨年、別のヒット曲で盗作があったことを認定し、巨額の賠償を命じた評決を出している。
原告はソウルシンガー、マーヴィン・ゲイ氏(故人)の遺族ら。13年最大のヒット曲とされるロビン・シック氏の『ブラード・ラインズ』は、ゲイ氏の『ゲット・トゥ・ギブ・イット・アップ』(1977年)の盗作だと訴えた。
米メディアなどによると、シンク氏とプロデューサーのファレル・ウィリアムズ氏側は「子供の頃からゲイ氏のファンだった。しかし曲が似ているのはジャンルだけ」などと訴えたが、かなわず、原告側は740万ドルを勝ち取った。
『天国への階段』訴訟で、原告側は2匹目のドジョウと期待していたかも知れない。甘くはなかったが、抗告し巻き返しを図る姿勢だ。一方、ペイジ氏らは訴訟費用の負担を求めて訴えを起こした。戦いは続く。
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