電動キックスケーター急増 シンガポール「通勤用に完璧」

 

 シンガポールは赤道直下で蒸し暑い気候のためか、自転車をほとんど見かけないなか、電動式のキックスケーターで通勤する人が急増している。都市国家のシンガポールは道路の舗装が行き届いており、走るのは容易で、運転免許は不要。折り畳めば地下鉄やバス、職場に持ち込める便利さが受けている。

 午後6時すぎ、市中心部をゆったりと流れるシンガポール川沿いの遊歩道。会社帰りとみられる人たちが次々と電動キックスケーターで、涼しい顔で走り抜けていく。自転車に乗った人は、1時間で2人だけだった。

 最高時速25キロ。満充電で最長数十キロの距離を走れる。ほぼ全てが中国製だ。シンガポール国内の利用者は1万5000~2万人と推定される。

 「通勤時間がたった7分になった。渋滞が関係ないから、フェラーリより速い。こんな完璧な乗り物はないよ」。投資銀行に勤めるフランス人男性のリチャードさんは笑顔で話す。

 今までは3キロほど離れた自宅からバスで通勤していたが、最近、1100シンガポールドル(約8万2000円)で電動キックスケーターを購入。ラッシュアワーのストレスから解放された。

 専門店を経営するチュー・ツェウェイさんによると、電動キックスケーターを扱う店は、昨年は4店しかなかったが、現在は35店以上に増えている。

 チューさんの店の客層は10代から70代までと幅広く、職業も会社員から医師、カメラマンとさまざまだ。チューさんは「一時的な流行ではなく、日常生活の一部になっている」と話す。

 日本で公道を走るためには運転免許のほか自賠責保険加入などが必要になるが、シンガポールでは現在、そうした規制はない。歩道での衝突事故なども度々報告されているものの、シンガポール政府は一律の規制はせず、安全確保のガイドラインを今年中に示す考えだ。

 東京23区ほどの国土に約560万人がひしめくシンガポールは「車に依存しない社会」を2030年に達成することを目指しており、電動キックスケーターもこれに一役買いそうだ。(シンガポール 共同)