臨時国会開幕 停滞許されぬTPP審議
視点□産経新聞論説副委員長・長谷川秀行
政府・与党が参院選前の通常国会で、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)の承認案と関連法案を成立させなかったのは良くなかった。今さらながら、そう思う。
農業票の反発を恐れた政治判断だったのだろう。早々に国会審議を先送りした、このときの対応ぶりを振り返ると、26日に開会した臨時国会で、TPPを最優先課題にすると言われても、覚悟のほどには疑念を抱かざるを得ない。
これで本当に大丈夫か。そんな思いを強くしたのは、安倍晋三政権が、米大統領選でのTPP反対論に対し、効果的に反論できないからだ。自国の国会手続きも終えていないのに、米議会に承認を促しても説得力に欠ける。それが残念でならない。
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米大統領選では、共和党のドナルド・トランプ氏だけでなく、民主党のヒラリー・クリントン前国務長官まで、退路を断つように「大統領選後も反対する」と明言している。選挙後、自らの任期末までのわずかな期間に議会承認を得たいオバマ大統領のもくろみも、このままでは実現が難しい。
無論、米国の選挙である。どういう結果になろうとも、それは米国民の選択だ。
だからといって、党派を問わぬ米国内の保護主義の高まりに対し、同盟国の日本が苦言をためらう理由はない。TPPが成長戦略の柱だというなら、米国の内向き志向に強い懸念を発信すべきである。
中国、ラオス、米国と続いた首相の外遊は絶好の機会だった。首相とオバマ大統領が顔をそろえて自由貿易の意義と保護主義の弊害を説き、TPPの戦略的な重要性を訴える。苦境に立つオバマ大統領にとっても、大きな追い風にできたはずだ。
だが、一連の外遊中、日米首脳会談は一度も開かれなかった。これでは、日米の結束どころか、すきま風が吹いている印象である。日米両首脳には、米議会の反対でTPPの発効が危ぶまれていることへの危機感がどれほどあるのだろうか。
首相はバイデン副大統領との会談で「日米主導でTPPの早期発効に向けた機運を高めていきたい」と発言し、双方が努力することで一致した。だが、ほかならぬ日米が、発効への機運を低下させている現状をもっと厳しく受け止めるべきだろう。
首相はクリントン氏とも会談し、早期承認の必要性を訴えた。クリントン氏は慎重な姿勢を崩さなかったというが、次期大統領候補や民主、共和両党の議員に日本の懸念を伝え、大統領選後の大局的な判断を促すことは、もちろん大切である。
そのためにも、今度こそ確実に国会手続きを終えなければならない。政府・与党は10月末までにTPP承認案などの衆院通過を目指している。11月8日の米大統領選を前に審議が停滞するようでは、米議会への働きかけもおぼつかなくなるだろう。
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与野党には臨時国会で、TPPをどう活用し、新たな成長基盤とするのかを前向きに語り合ってほしい。政局の駆け引き材料にして、審議時間を浪費するようなことは厳に慎むべきである。
関税のみならず、貿易や投資などのルールを幅広く規定したTPPは、人口減少で国内市場の縮小に直面する日本が、海外経済の活力を取り込んでいく上で欠かすことのできない成長基盤となり得る。
これに対応するには、構造改革や規制緩和で、あらゆる産業の生産性を高める必要がある。政権はTPPのメリットだけでなく、輸入増で打撃を受ける農業などへの影響も包み隠さず開示すべきだろう。
民進党は、TPPについて「農産品の重要5分野が守られていない」などとして現状での承認に反対している。ただ、12カ国が参加する交渉で、日本の要求がすべて満たされることは本来あり得ない。
TPPは、民主党政権時に交渉参加の協議入りを決断した経緯もある。「提案型政党」を掲げるなら、早急に現実的な対案を示す必要があろう。それもないまま、幹部が「前のめりに審議する必要はない」などと言うのは、あまりに無責任である。
TPPが頓挫すれば、日本経済は発展の機会を長期的に喪失することになりかねない。今がその岐路なのだということを強く認識しておかなければならない。
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