Aクラスなら高成長率? 広島カープと日本経済の意外な関係
25年ぶり7度目のリーグ優勝を果たし“赤ヘル旋風”を巻き起こしたプロ野球の広島。過去の成績をたどると、実は日本経済との深いつながりが見えてくるという。経済成長を促そうと、政府は経済対策や規制改革に取り組む一方、日銀は追加の金融緩和も辞さない構えだ。もしかすると、広島優勝の立役者となった黒田博樹投手が、2%の物価上昇率目標の達成に四苦八苦する日銀の黒田東彦総裁を救う構図になる-かもしれない。
東京都内の大手金融機関に務めるMさん(44)は子供のころからの広島ファンだ。リーグ制覇から一夜明けた9月11日も東京ドームでの巨人戦に足を運び、大阪から来ていた顔見知りの広島ファンと喜びを分かち合った。
「広島ファンほど、飛行機や新幹線を使ってまで球場に応援に行く熱心なファンはいないですよ」。自身も仕事の合間を縫ってマツダスタジアムまで観戦しに行くこともあると、Mさんは胸を張る。
こうしたファンの思いに応えようと、地元・広島では、百貨店や飲食店が次々と優勝セールを実施。広島銀行やもみじ銀行は定期預金の金利の0.2%上乗せを決めた。25年ぶりのカープ(鯉)優勝にちなんでニシキゴイを25%引きして販売する業者も現れた。
祝勝ムードは東京にも飛び火した。銀座にある広島県のアンテナショップには、限定品狙いの客が連日のように長蛇の列を作り、話題になった。
関西大の宮本勝浩名誉教授の試算によると、広島のセ・リーグ制覇により、広島県内だけで約331億円の経済効果が見込まれる。楽天が3年前にパ・リーグを初制覇した際に宮城県内に及ぼした230億円の経済効果(推計値)を優に上回る計算だ。
宮本氏は「カープ女子の登場などファン層が広がった。県外を含めればさらに効果が増える」と分析している。
三井住友アセットマネジメントの宅森昭吉チーフエコノミストが広島の成績と名目国内総生産(GDP)成長率の関係で、ちょっと面白い“発見”を披露してくれた。
広島がセ・リーグで初優勝した1975年以降、昨年までの間にAクラスになったのは20回。これらの年の名目GDP成長率の平均は5.8%で、全期間の平均成長率3.3%を大きく上回った。これは偶然見つかった相関性ではあるが、宅森氏は「広島の活躍がデフレ脱却につながりそうだ」と期待を込める。
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■黒田投手が黒田総裁を救う?
日銀が黒田総裁の指揮の下、大規模な金融緩和を始めた2013年、広島は16年ぶりにAクラスに復帰した。日銀が電撃的な追加緩和に踏み切り、「黒田バズーカ2」に沸いた14年もAクラスを守った。
15年は原油価格の大幅下落や、消費税増税の影響で物価が伸び悩み、黒田総裁が就任当初に打ち出した「2年で2%の物価上昇」が達成できなかった年だ。広島は4位に終わり、再びBクラスに転落した。
今年は黒田投手が日米通算200勝を達成し、25年ぶりにリーグ優勝した。これに対し、経済・物価の雲行きは頼りない状況が続く。
生鮮食品を除く消費者物価指数の前年比上昇率は8月まで6カ月連続でマイナス圏に沈む。黒田総裁は「デフレからの脱却には想定以上に時間がかかっている。そうであるからこそ、私は『二度とデフレに戻ることがないようにしなければならない』との思いを強くしている」と話す。
日銀は9月20、21日の金融政策決定会合で、(1)長短金利の操作(2)生鮮食品を除く消費者物価指数の前年比上昇率が安定的に2%を超えるまで通貨供給量の拡大継続方針-の2本柱からなる新しい政策の枠組みを打ち出した。このうちさまざまな要因で上下する長期金利を中央銀行が直接操作するのは異例のことだ。黒田総裁も「日銀が世界に先駆けて導入する」と述べており、デフレ退治への思いを一段と強くしている。
三井住友アセットの宅森氏は「黒田投手が黒田総裁をサポートすることになるかもしれない。黒田投手の広島復帰には不思議な巡り合わせを感じる」と熱く語る。
「景気の気は気分の気」という言葉もあるが、果たして日本経済は赤ヘル旋風の追い風に乗れるだろうか。(米沢文)
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