中国北京に“世界最大の空気清浄機”が登場するも…稼働3日でツイてない事態に

 

 微小粒子状物質「PM2・5」による大気汚染が深刻化する中国の北京で、世界最大という高さ7メートルの空気清浄機が稼働を始めた。オランダ人芸術家のダーン・ローズガールデ氏が中国政府当局の支援を受けて建設した。もちろん、こんなもの1台で北京の空気がきれいになるはずもなく、啓蒙(けいもう)活動の一環という。案の定、稼働2日後には大気汚染が「健康に極めて悪い」レベルに達し警報が発令され、“焼け石に水”を印象づけた。中国では大気汚染による疾患で年160万人が命を落としたとの調査研究もあり、抜本的な対策が急務だ。

 「これは世界最大のスモッグの掃除機だ。1時間当たり3万立方メートル、1日当たりではサッカースタジアムの広さに相当する空気をクリーンにし、北京市民に供給する」

 ロイター通信や米CNNテレビ(電子版)などによると、ローズガールデ氏は9月29日に北京で記者会見し、「スモッグフリー・タワー」と名付けた巨大な空気清浄機を内外のメディアにお披露目した。

 タワーは、同氏が率いる「スモッグフリー・プロジェクト」チームが2013年から開発を続け実用化した。周囲360度の空気を取り込み、PM2・5(直径2・5ミクロン)~PM10(直径10ミクロン)までの微小粒子状物質を75%以上除去し、クリーンな空気を放出する仕組み。

 健康に有害なオゾンを生成することなく微小粒子をイオン化する技術と、湯沸かし器と同等の1400ワットで稼働する省電力性能を誇り、すでに特許を取得しているという。

 またプロジェクトでは、空気中から除去した微小粒子を集めて圧縮し、黒いダイヤのような“宝石”に加工し、指輪やカフスボタンとして販売している。宝石は、約1000立方メートル分の空気に含まれる微小粒子で作られている。同氏は「リングを購入すれば、1000立方メートル分のクリーンな空気を寄付したことになる。購入した人は、環境破壊に加担しているのではなく、環境保護に貢献しているという意識を持つことができる」と語る。

 同氏は、2013年に北京を訪れた際に、このプロジェクトを発案したという。当時のことを、「ホテルの窓から一日中外を眺めていたが、何も見えなかった。次の日も北京は厚いスモッグのカーテンに覆われていた」と振り返る。また、炭素から人工ダイヤが作り出されていることをヒントに、スモッグの微小粒子を宝石に加工することを思いついたという。

 今後、中国政府当局と協力し、4都市を回り、環境問題に関する啓蒙活動を行う計画だ。もちろん、同氏もこの空気清浄機で北京の大気汚染を解決できると考えているわけではない。

 「目的は、限られた地域の空気をきれいにする方法を提供することではない。クリーンな空気を感覚的に体験することで、美しく、クリーンな未来を感じてもらうことにある」と、同氏は語る。その上で、「このタワーは、スタートにすぎない」と述べ、問題解決のため、政府と市民の双方が積極的に行動することが必要だと訴えた。

 ただ、何とも間が悪いことに、稼働開始の3日後の10月2日、北京市政府は、深刻な大気汚染が連日続くとして今年後半では初の警報を発令した。北京では、暖房のための石炭使用が増える冬場に向け、大気汚染が悪化するが、北京の米大使館のウェブサイトによると、早くもPM2・5を含む汚染指数が2日に「健康に極めて悪い」レベルの281に達した。

 タワーの効果はみじんもなく、かえって“焼け石に水”“蟷螂の斧”を露呈することになってしまったわけだ。

 大気汚染による健康被害は深刻だ。タワーが稼働する2日前の9月27日、世界保健機関(WHO)は、肺がんなどの関連疾患による死者が全世界で年間約300万人に上るとする報告書を発表した。

 WHOはPM2・5の基準値を大気1立方メートル当たり年平均10マイクログラムと定めているが、衛星写真と地上約3000地点での観測結果を分析したところ、全世界の人口の92%が基準を超える場所で生活していることが分かった。

 中国のPM2・5の濃度は、同54マイクログラムで、基準値の5倍超。ちなみに日本は、同13マイクログラムだった。WHOは、各国政府に汚染源を調査し、改善を図る政策を早急に実施するよう勧告している。

 また、今年2月には、2013年に中国で大気汚染を原因とする疾患により約160万人が命を落としたとする調査研究も発表された。

 カナダのブリティッシュコロンビア大学の研究チームによるもので、工場や車の排ガス、石炭の燃焼などが、肺がんなどを引き起こしていると指摘。全世界の死者は約550万人に上り、中国と約140万人のインドを合わせた両国で全体の55%を占めたとしている。

 中国では石炭の燃焼が最大の原因で、これだけで2013年に36万6000人が死亡したと推計している。

 研究者は、「対策に本腰を入れなければ、今後20年間、早死にが増加の一途をたどることになる」と警告している。

 空気清浄機でPM2・5を除去するという対症療法ではなく、何とかと一緒で、発生源を元から絶たなければならないことは言うまでもない。