TPP 中小続く試行錯誤 日米は政治停滞、発効見えず
環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)承認案の国会審議が始まった。与野党の駆け引きが目立つ日本、保護主義が台頭する米国とも、交渉合意にこぎ着けた1年前の高揚感は消え、批准・発効への道筋は見えない。政治の停滞を横目に農業、中小企業の現場では国際競争を意識した試行錯誤が続く。
◆挑戦
「おかげで商談が増えた。チャンスだと思っている」。千葉県船橋市で自動車部品メーカー「ミナトゴム」を経営する田口昌也社長はTPPに期待する一人だ。従業員は約60人。関税撤廃を見据え、メキシコ輸出に初挑戦することを決めた。
中小製造業のうち輸出を手掛けるのは2013年時点で約6400社、全体の3.5%にとどまる。「商慣習が違い、人材育成も思うようにいかない」(中小メーカー経営者)といった理由で二の足を踏む企業も多い。
経済産業省はTPP対策の一環で、企業の海外展開を支援する組織を2月に設立。ミナトゴムも専門家の派遣を受け、メキシコ市場を狙ってベトナム工場の増強へ動きだした。支援先は9月下旬までに全国で約1600社に広がった。
昨年10月、TPP参加12カ国は利害対立を超え、協定に大筋合意した。日本政府は人口8億人の自由貿易圏が生まれる意義を強調し、TPP対策大綱で「新輸出大国」「農政新時代」と明るい未来を描いてみせた。
だが、その後は誤算続きだった。交渉を率いた甘利明氏が金銭授受問題で経済再生担当相を辞任。国が管理する輸入米の不透明な取引実態も最近発覚した。仕切り直しとなった14日の臨時国会の審議は与党の質問だけで淡々と終わったが、野党の追及材料に事欠かず、今後の火種は尽きない。
一方、米国では大統領選候補のクリントン氏、トランプ氏とも反対の立場で、TPPは当面、棚上げになる公算が大きい。対日交渉を担った米通商代表部(USTR)の前次席代表代行、ウェンディ・カトラー氏は米国内の承認手続きが「オバマ政権下で終わるとは思わない」と見切りを付けた。
TPP発効の遅れに、中国は「米国に対する国際的な信頼度の低下」(人民日報)につながるとほくそ笑む。8月にはカナダが中国主導のアジアインフラ投資銀行への加盟申請を決定。中国は米陣営の一角を取り込み、独自の国際秩序づくりを着々と進めている。
◆経営感覚
TPPがどうあれ、日本農業の再生が待ったなしの状況は変わらない。
15年度と16年度の補正予算に盛り込まれた農業関連のTPP対策費は計6575億円。関税貿易一般協定(ガット)ウルグアイ・ラウンド対策は総額6兆円の半分が「箱もの」を含む公共事業に使われ、効果が乏しかったとされる。その反省から、今回は公共事業を3割に抑え「産地の体質強化を重視した」(農林水産省幹部)。
自民党の小泉進次郎農林部会長は「農業に経営感覚、コスト意識を根付かせたい」と語る。全国農業協同組合連合会(JA全農)に改革を迫り、肥料や農薬など国際的に割高な資材価格の引き下げに照準を定める。
関連業界の再編にも関心を示すが「民間相手の難しさ」(農林族議員)もあり、落としどころはまだ見えない。(ワシントン、北京、東京 共同)
関連記事