現代自の全面ストが韓国経済を打撃 「自分さえ良ければ」と馬耳東風の労働貴族たち
現代自動車のストライキが、韓国経済に悪影響を及ぼしている。現代自の労働組合にとっては“恒例行事”だが、今年は工場の生産ラインを止める「全面スト」を12年ぶりに実施するなど、経営側との交渉がこじれにこじれている。韓国経済は、下請けメーカーに業績悪化の懸念があるほか、今年1~8月の韓国内の自動車輸出がメキシコに抜かれて世界4位になるなどの打撃を受けた。それでも、“自分さえ良ければ”と馬耳東風の現代自労組は、政府高官や中小企業団体から総スカンを食らっている。
現代自労組は9月26日、全組合員が勤務せず部署ごとに決起集会を開き、国内3工場の生産ラインを全面停止した。
現代自労組のストは毎年のように行われている。しかし今年の場合、労使交渉で暫定合意したものの、合意案が労組内で受け入れられなかったとしてストが行われたのだ。経営側は「労使間の信義誠実の原則に反する」とコメントするなど対立が深まっている。中央日報日本語版によると、ユン・カプハン現代自社長は、2008年のリーマン・ショック前後の米GMやクライスラー、トヨタ自動車の賃金が凍結されていた事例を挙げ、「現代自は2007年から現代まで賃金を50%も上げた。会社の未来のためにストを自制してほしい」と訴えた。
ストが長期化すれば、下請けメーカーや経済への影響が避けられない。中央日報日本語版によると、現代自では今年に入り24回のスト(9月30日時点)が起き、その影響による経営損失が2兆9000億ウオン(約2660億円)に及んでいるという。
政府や下請け側もだまっていない。朝鮮日報日本語版によると、韓国雇用労働部(省に相当)のイ・ギグォン長官は9月28日、「現代自のストが長期化すれば、労働組合法で認められるあらゆる対応に乗り出し、ストを早期に終わらせる計画だ」と述べた。中小企業団体協議会のパク・ソンテク会長も同日の会見で、「現代自の賃金は中小企業に比べておよそ2倍も高いにもかかわらず、労働組合はそこからさらに賃金の引き上げを求め、ストを行っている」と述べ、現代自製品の不買運動を検討していることを明らかにした。
国を挙げての現代自批判には訳がある。足元の韓国経済をめぐり、ウオン高による国際競争力低下が顕著になっているからだ。1~8月の韓国の自動車輸出台数は前年同期比14.4%減の169万2906台。ドイツ、日本に続く世界3位の地位をメキシコに奪われてしまった。
その大きな要因が、過激化した現代自労組に代表される、経営側と組合側の“不健全な対立”だ。労組の世界経済フォーラムが9月28日に発表した国家競争力ランキングによると、国家競争力の順位は3年連続で26位だった。朝鮮日報日本語版によると、「労使間の協力」という項目で、韓国は138カ国・地域中135位と極めて低かった。
「企業を発展させる」という大前提が崩れた労使の対立は、企業の体力を疲弊させるだけだ。現代自の経営側はすでに手を打っている。
東洋経済日報によると、現代自傘下の起亜自動車は9月、メキシコに年産40万台の最新鋭工場を完工した。中国、欧州、米国に次ぐ4番目の海外工場で、同社の生産能力は国内で年間160万台、海外で196万台となり、海外が国内を逆転した。
グローバル競争を強いられる自動車業界で生き残るためには、競争力の落ちる国での生産をやめざるを得ない。労働コスト増に直結する、韓国特有の“労働貴族”の弊害がなくならなければ、経済浮沈の序曲となりかねない。(鈴木正行)
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