どこまで増えるか、訪日外国人客 「2020年4千万人」目標の現実味は?
訪日外国人旅行客が2000万人を突破した。東京や大阪など都市部では街中に多くの外国人があふれ、消費の担い手としての存在感も高まる一方、最近では増加ペースに陰りもみられる。政府が掲げる年間4000万人の達成にはさらなる施策が必要となりそうだ。
10月最後の週末を迎えた東京・歌舞伎町の「ホテルグレイスリー新宿」(東京都新宿区)。午前11時のチェックアウトを済ませた外国人客が荷物を預けると、次々に街中へと繰り出していった。香港から来たという20代のカップルは「東京ディズニーランドが楽しみ」と声を弾ませる。
運営する藤田観光によると、昨年4月開業の同ホテルは当初、970室のうち6~7割の稼働率を見込んでいたが、ふたを開ければ9割前後の高稼働率。「多いときで宿泊客の9割」という訪日客が牽引(けんいん)役で、担当者は「観光地への交通アクセスが良く、海外からの個人旅行客に支持されている」と胸を張る。
訪日客数急増は政策面での積極的な後押しの影響が大きい。政府は観光立国を成長戦略の柱に据え、ビザ発給要件の緩和や消費税免税制度の拡充などを矢継ぎ早に打ち出した。今年度の観光庁予算は前年の2倍で、2013年に年間約1036万人の訪日客数は3年で2000万人の大台まで駆け上がった。訪日客の旅行消費額も、自動車部品の輸出額に迫る市場規模へと成長した。
だが「20年に4000万人」の目標達成には疑問符が付く。SMBC日興証券の試算では、達成には来年以降も約14%の伸びが不可欠だが、今年3月まで3割を超えていた伸び率は4月以降、ほとんどの月で10%台に鈍化した。同証券の宮前耕也シニアエコノミストは「円高に加え、宿泊施設不足などの供給制約が影響している」と分析する。
カギを握るのは、受け入れ態勢の充実だ。観光庁は訪日客の宿泊先が東京や大阪など特定地域に偏っている実情などを踏まえ、一般住宅に有料で旅行者などを宿泊させる「民泊」の規制緩和を進めるほか、食文化などの地域資源を商品化する取り組みを進める。民間調査では、訪日客が日本で言葉が通じないことを最大の不安要素としており、多言語化も含め意思疎通の取り組みも求められる。
菅義偉官房長官は31日の会見で、2000万人突破は「あくまで中間点」と強調した。宮前氏は「ビザ緩和やハード面の整備だけでなく、日本人にとってのハワイのように、コミュニケーションも含めた快適な滞在環境を地域でつくり、訪日客のリピーターを増やす必要がある」と指摘している。(佐久間修志)
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