クライスラー破綻は日本のせい? 日本批判のトランプ氏だが、クリントン政権誕生でも状況は…
米大統領選の共和党候補、ドナルド・トランプ氏の経済参謀が大学の同窓生を集めた会合をマンハッタンで開き、こんなエピソードを開陳した。
この夏発足したトランプ氏の経済諮問委員会のメンバーが集まった。日本でのビジネス経験を持つ投資会社首脳が日本たたきを始め、こう断言したそうだ。
「米自動車大手クライスラーが2009年に経営破綻した責任の一端は、日本にある」
他の委員が理由を聞くと、投資会社首脳はこのように答えたという。
「日本の外国車市場には商慣習や手続きなどの非関税障壁がある。クライスラーは事実上の『輸入数量規制』に阻まれて、日本のような大きな市場で売り上げを伸ばせなかった」
クライスラーが日本市場を開拓できなかったのは、消費者の需要に応えることができなかったマーケティング力の弱さが原因-というのが通説である。
最近でも、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)における日米交渉では、米国車輸入手続きの簡素化や日米で異なる安全基準の調整など、米国勢が得する条項が盛り込まれた。
日米の自動車産業の競争条件はもはや変わらない。逆恨みである。
だが、米自動車大手のフォード・モーターが日本撤退を決めたこともあり、「トランプ氏の経済諮問委員会では、『日本は開放された市場ではない』という印象がつきまとっている」と、先の経済参謀は話す。
実際、トランプ氏本人も春先に、「日本からは数百万台の自動車がやって来るが、米国勢はほとんど日本では売っていない」と発言。「(建機大手の)コマツに(米の)キャタピラーがやり込められているのは、為替操作が原因だ」とした。
米国で新政権が発足する来年以降、米国から日本経済に向かい風が吹く可能性がある。日米貿易摩擦が最高潮に達した1980~90年代の対日観を根強く持っているトランプ陣営はもちろん、民主党候補のヒラリー・クリントン氏も日本の為替政策をやり玉に挙げる可能性があるからだ。
「日本や韓国など、米国への輸出国には圧力が加わる」と言うのは、米外交問題評議会(CFR)の上級フェロー、ベン・スティール氏。「仮にクリントン政権が誕生した場合、円安誘導策を牽制(けんせい)する公算が大きい」と予想する。
クリントン氏は現実主義者だ。同氏は「現在はTPPに批判的だが、当選したら手のひらを返したように推進派に回る」とみる。
そこで、雇用に悪影響を与えるドル高(円安)を懸念する米議会を納得させるために、「日本の円安を押さえ込むことを公約する」(スティール氏)。TPP成立のために、日本の為替政策がいけにえになる-という読みなのだ。
また、クリントン氏は多くのウォール街関係者が支持している。大口献金者の中には、日本での活動で「ハゲタカ」とののしられた投資会社経営者がおり、日本企業への投資や買収で失敗した恨みを持っている。
ただでさえ、最近の米投資会社は運用成績が低迷し、ストレスがたまっている。「クリントン政権ができれば、大口献金者だった投資会社がロビー活動をして日本企業に圧力を加える」(外交筋)という、金融危機前までみられたウォール街と米政府の共同歩調が復活する可能性もある。
(ニューヨーク駐在編集委員 松浦肇)
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