何もかも規格外の異端児 暴言=正直、タブーなき本音主義で欠点も魅力に
トランプ氏勝利政治経験ゼロ。メディアを敵に回す。ビジネスでも失敗した。何もかもが規格外の異端児、共和党のドナルド・トランプ候補が米大統領選で当選を決めた。1968年に出馬したジョージ・ウォレス氏や2000年のラルフ・ネーダー氏など、大衆迎合主義者は過去にもいた。トランプ氏は何が違ったのだろうか。
徹底した打算主義者
この夏、民主党全国委員会幹部のメールが漏洩(ろうえい)し、民主党のヒラリー・クリントン候補の陣営幹部が「トランプ氏を応援するロシアの関与」に言及した。そのとき、「米政府だって海外でやっただろう」と反論した人物がいる。
1992年と96年は共和党から、2000年には第3党から大統領選に出たパット・ブキャナン氏だ。
米政治史に詳しい作家のジョン・ジュディス氏によると、ブキャナン氏とトランプ氏は、「大衆迎合主義者という点で酷似している」。ブキャナン氏も爆弾発言で知られ、孤立主義を主張して物議をかもした。
2人の語り口は攻撃的だ。矛先は既得権を抱えた支配層。ジュディス氏は「労働者を中心とするサイレント・マジョリティー(物言わぬ多数派)が支持した点もそっくり」だと評する。だが、ブキャナン氏と違い、トランプ氏は大統領の座を手中にした。
父親の不動産会社を継いだトランプ氏は根っからのビジネスマンだ。「もうかるのか、もうからないのか」が座標軸の打算主義者である。その原点は民主党に近い。「大きな政府」が好きで、過去の大統領選では民主党候補を支援し、現夫人との結婚式にはクリントン夫妻を招待している。
共和党から出馬したのは、「勝てそうだったから」(ウォール街の共和党献金者)。「トランプ旋風」の原因は、クリントン一家に代表される支配層に対する白人中間層の怒りを代弁したことにあるが、こうした人々は共和党が多く抱えていた。
トランプ氏が1980年代に発刊した著書「ジ・アート・オブ・ザ・ディール」。11カ条からなる人生哲学だが、中身は功利的なビジネス論。思想が合わなくても共和党から出馬したのは、「多くの選択肢を持つ」という同書に書かれた信条に従っただけなのだ。
タブーなき本音主義
「マーケティング力」も見逃せない。テレビ番組に登場して名を売ったが、米デラウェア大学のダニロ・ヤニッチ都市・公共政策プログラム部長は「芸能人という立場を利用して、視聴率の高い時間帯の生放送に限って取材に応じるなど、マスコミ活用術がずばぬけていた」という。
「支配層とつるむ不誠実なやつら」。投票前日の7日、トランプ氏は接戦の大票田5州で遊説し、マスコミをやり玉に挙げた。記者とけんかするのは本来ならご法度だが、「クリントン氏が世論を操作している」というメッセージを上手に伝えた形だ。
「タブーなき本音主義」も特性だ。暴言に加え、自己顕示欲や金銭欲といった欲望に正直で、演説は自慢話ばかり。有権者はこれを「正直」だと受け取った。
トランプ氏の不動産会社が運営する傘下企業は、過去に4回破綻した。だが有権者は、「やりたいことをやってだめでも、不死鳥のようによみがえるトランプ氏の経歴は、今の米国に必要」(運送業のアンソニー・カムパニャさん)と判断した。単なる大衆迎合主義者にとどまらず、「体制」に対する不満票を取り込んだことが勝因といえる。(ニューヨーク 松浦肇)
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