シンガポール、金融拠点強化 欧州尻目にフィンテック本腰

アセアニア経済
シンガポールで開催されたフィンテック展示会で、自社技術を説明する日本企業担当者=17日(吉村英輝撮影)

 ITを使った新たな金融サービス「フィンテック」の育成に、シンガポールが本腰を入れている。英国の欧州連合(EU)離脱で混乱するロンドンなどのライバル都市を横目に、銀行間の仮想通貨決済の実証実験に乗り出すなどし、国際金融拠点としての競争力強化につなげたい狙いだ。シンガポールで開催されたフィンテックに関する大型展示会には、内外の大手金融機関に交じり、日本のベンチャー企業も出展して、アジアの巨大市場での事業展開に向けて独自技術を売り込んだ。

 ◆展示会に日本企業も

 「アジアへの進出にあたり、是非パートナーになっていただきたい」。シンガポール東部の展示会場の一角で17日、日本貿易振興機構(ジェトロ)が進出支援する日本企業7社の担当者は、約100人の聴衆を前にそれぞれ、英語で5分間のプレゼンテーションを行い、自社の特許技術を説明した。

 展示会は、シンガポール通貨庁(MAS、中央銀行)とシンガポール銀行協会(ABS)が16日から2日間、初めてフィンテックに特化し開催した。約80社・団体の出展者には、三菱UFJフィナンシャル・グループやNECといった日本勢を含む内外の大手も名を連ねた。

 ジェトロが支援する7社の一つ、ドレミング(福岡市中央区)は、銀行口座がない労働者がスマートフォンアプリなどを使い、給与手取り額を上限に買い物ができる給与管理システムを提供する。途上国の低賃金労働者らの生活を支え、貧困や格差の低減につなげようと、2015年に設立した。ロンドンに昨年拠点を設けたが、直後に英国のEU離脱問題が発生。桑原広充・代表取締役は「来年中に東南アジアに拠点を設け、4億人の利用者を開拓したい」と意欲を示した。

 ジェトロは今年2月、日本のベンチャー企業を対象に、シンガポールでの起業や特許活用を支援するビジネス・マッチングを同国で開始した。同様の試みは、米シリコンバレーで13年から行っているが、アジアでは初めて。中小企業の海外展開を促進したい日本側と、東南アジア最大の起業(スタートアップ)拠点として活動を活発化させたいシンガポール側のニーズが一致した。

 第2弾となる今回の支援がフィンテックに特化した背景について、ジェトロ・シンガポール事務所の石井淳子所長は「各種イノベーションの中でも特に注目度が高い分野。シンガポール政府は、金融ハブであり続けようと起業を促している。各種の政策が試みられようとしており、日本として新たな知見の獲得も期待できる」と説明する。

 ◆導入推進へ法整備

 MASは昨年8月、フィンテック専門の部署を設置し、既存金融機関がフィンテック導入を推進できるよう法整備も進めている。今月16日には、企業が当局の規制の下でフィンテック関連の実験を行う「レギュラトリー・サンドボックス(規則下での砂遊び場)」の最終ガイドラインを公表した。

 金融機関などは一定期間、顧客情報の保護やマネーロンダリング(資金洗浄)の防止といったルールを守りながら、ITを駆使した新サービスを実験的に導入できる。MASは実験結果報告を今後の規制に生かす方針だ。

 また、MASは同日、三菱東京UFJ銀行など、同国に拠点を置く内外の銀行8行、シンガポール取引所(SGX)と協力し、仮想通貨の取引に使われる技術「ブロックチェーン」を応用した銀行間の国際送金や決済に関する実証実験を行うことも発表した。実用化されれば、コストや時間の削減につながる。

 ジェトロの支援で、サイバー・セキュリティー事業を紹介した、カウリス(東京都千代田区)の森下将宏氏は、現地のアドバイザーから受けた研修などで「分かりやすいプレゼンができた」と評価。フィンテックに特化した展示会は世界でも珍しいとして、「参加者にはこの分野に精通した経営者も多く、具体的な商談に直結する話もいただけた」と、手応えを語る。

 ジェトロは今回の参加企業に、海外拠点開設などの支援を継続していくとしている。(シンガポール 吉村英輝)