過度の期待も懸念も不要 カジノ法案、ビジョン示し前進を

視点

 □産経新聞経済本部編集委員・芳賀由明

 衆院内閣委員会で審議していたカジノ法案が2日、可決された。2013年、15年にも法案を提出しており、“3度目の正直”となるか注目されるが、14日までの国会会期中に成立する可能性が高まっている。「ギャンブル依存症」や「反社会的勢力による資金洗浄の場になる」との根強い懸念から、公明党や民進党が反対の姿勢を崩していないからだ。

 カジノ法案とは、カジノを含む統合型リゾート施設(IR)推進法案の通称。IRには大型会議場やイベントホール、ホテル、劇場などが集約され、展示会やセミナー、旅行、観劇など内外からの集客を見込める。これらの施設は主にカジノの収益で運営される仕組みで、ラスベガスやシンガポールなど各国で成果を挙げている。菅義偉官房長官が11月30日の記者会見で、「観光振興、地方創生、産業振興の面で大きく期待されている」と述べるなど、政府も「ポスト東京五輪」の経済効果にIRは不可欠との考えだ。

 最も懸念されているギャンブル依存症について、中田宏・元衆院議員がブログで「20年前に議論されたサッカーくじ批判に似ている」と指摘する。サッカーくじが欧州など浸透しているにもかかわらず、「子供に悪影響」「ギャンブル国家になる」などと批判された経緯があるからだ。

 筆者はかつてスペインの街角で、老婦人と孫娘らしい5歳ほどの子供が楽しそうに数十円ほどのサッカーくじを買っていたのを見た。市民がそれぞれの立場でサッカーくじを楽しむ成熟社会の一端を垣間見た気がした。

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 カジノ解禁によって依存症が増えると信じる論拠の一つになっているのが、成人の4.8%がパチンコや競馬などギャンブル依存症だとする厚生労働省の調査だ。「罪悪感を感じたことがあるか」という問いなど、国際比較にそぐわない定性的調査にもかかわらず、「他国がほとんど1%前後なのと比べて非常に高い数字」と結論づけている。

 しかし、日本がパチンコ王国であることは事実だ。国内にはいま、パチンコ店が約1万4000あり、パチンコ人口は1000万人、市場規模は20兆円超といわれる。

 現在、刑法で禁じられているカジノを解禁するには特例法の成立が不可欠。一方、パチンコは「風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律」(風営法)の対象だが、換金方法など曖昧な裁量行政で管理。事実上、野放し状態が続いていた。

 実施法に盛り込まれることになるギャンブル依存症防止策は、カジノだけではなくパチンコや競馬も含めた国内初の抜本的対策となることが期待されている。国際観光産業振興議員連盟(IR議連)幹事長の岩屋毅議員は11月30日の審議で、「法案には不正行為の防止や有害な影響を排除するための措置を政府が講じるべきだと書いている」と説明している。

 カジノ解禁論議に連動して、パチンコ業界の透明化も進めば社会的メリットは大きい。パチンコ業界では新たに業法を策定し、盤面のクギを調整できない台への置き換えが進んでいるほか、換金方法の制度化も検討されている。

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 カジノ法案では、大都市圏で2カ所程度のIRを開設し、その成否を見ながら地方自治体が申請した計画を国が認可する仕組みを規定している。一部で懸念されるように全国にカジノができるわけではない。

 ただ、安倍晋三首相が期待する「成長戦略の目玉」になるかどうかは未知数だ。国の管理による民間運営というIR整備のスキームがうまく機能しなければ、「中国人観光客の減少で存亡の危機にある」(共産党の島津幸広議員)韓国のカジノと同じ運命をたどりかねない。

 カジノ導入をめぐる議論には、過剰な経済成長論も過度のアレルギーも不要だ。自民党は今国会での成立を目指すが、民進党は「慎重な審議」を譲らない姿勢だ。

 ならば推進派は「具体策は実施法で」と先送りせずに、総合的なギャンブル依存症対策や最先端の犯罪防止策など、反対派を納得させられるビジョンを示すべきだろう。