「君の名は。」中国で快進撃 異例の早期公開、韓流排除も影響か

 
6日、北京市内の映画感に設置された映画「君の名は。」の広告幕(西見由章撮影)

 【北京=西見由章】日本のアニメ映画「君の名は。」が巨大な映画市場を抱える中国でも快進撃を続けている。海外作品の上映本数が制限されている中国では、検閲や改編で公開まで長期間を要するのが一般的だ。同作品が早期公開に至った背景には、韓流映画を排除する「禁韓令」など中国側の政治的な思惑も見え隠れする。

 公開後初の週末となった3日午後、北京市中心部のシネコンでは若者を中心に7割前後の席が埋まった。20代男性は「映像も美しかったが、なにより脚本が素晴らしい」と完成度の高さを絶賛。「もう一度、一人でじっくり見たい」(20代女性)とリピーターの多さを予想させる声もあった。

 中国の映画専門サイト「猫目電影」によると公開6日目となる7日現在の興行収入は3億5000万元(約58億元)を超えた。ユーザーによる平均評価も10点満点で9・4と公開中の作品ではトップで、当面勢いは衰えそうにない。

 同作品のスムーズな公開には中国の政治状況も影響している。映画専門誌「影視圏」(電子版)によると、尖閣諸島(沖縄県石垣市)をめぐり日中間の緊張が高まった2013、14年に公開された日本映画はゼロ。一方、今年は「君の名は。」を含め10本に上り、うち8本がアニメ作品だ。

 日本映画への追い風になったのが、韓国のコンテンツを中国から締め出す「禁韓令」の存在。米軍の最新鋭迎撃システム「高高度防衛ミサイル(THAAD)」の配備を決めた韓国への報復措置だ。同誌によれば、例年3、4作品公開されていた韓国映画が今年は一本も上映されていない。その隙間を埋めたのが日本映画というわけだ。

 近年急拡大してきた中国の映画市場が頭打ちの様相を呈していることも、収益力の高い日本アニメへの期待につながっている。習近平政権は中国のソフトパワー強化のために映画産業を重視。国内の15年の興行総収入は前年比5割増の約440億万元と日本の4倍の市場規模に達し、17年には米国を抜いて世界一になるとの予想もあった。だが16年の実績は11月にようやく400億円に達するなど減速傾向が鮮明だ。

 ただ日本映画の中国市場への進出が今後も順調に進むかは不透明だ。日本のTHAAD導入検討の動きが報じられた11月下旬以降、中国側は「北朝鮮の弾道ミサイルの脅威を口実に、いかなる国が地域の安定を損なうことにも反対する」(楊宇軍国防省報道官)と連日牽制(けんせい)し、中国メディアの中には核戦力の増強論すら出ている。

 韓国の聯合ニュースは、自国の芸能産業が中国側の「禁韓令」によって打撃を受けたと分析する一方、日本のTHAAD配備が本格化した場合は「韓国に劣らぬ被害を受ける可能性がある」と予想している。