ミスター・スタバに熱い視線 次の米大統領選に出馬? 「打倒トランプ」の期待

 

 退任を表明した米コーヒーチェーン大手スターバックスのハワード・シュルツ最高経営責任者(CEO)をめぐり、政界進出の観測が高まっている。政治問題に積極的に関与し、国民的人気が高い「ミスター・スタバ」の次期大統領選出馬への待望論も盛り上がる。大統領の座を射止めたトランプ氏だが、早くも「刺客」の影におびえそうだ。

 「本人もまんざらではないのでは」

 米国の政界関係者やメディアがそう勘ぐるのも無理からぬところだろう。

 現在63歳のシュルツ氏は12月1日、来年4月3日付でCEOを退くと発表した。だが、電撃発表をしたはずの本人のそれ以降の発言が関心を集めることになる。

 少し振り返ってみよう。まず発表当日の会見だ。シュルツ氏は(今後も会長として)スタバを去ることはないとしながらも、公的な職に就く可能性はあるのかとの問いに対し、直接的な返答を避け、こう述べた。「スターバックスは社会的にインパクトを与えられる企業だ。退役軍人の雇用などを手がけてきた。今後も共同体に還元を続ける」

 さらに、米紙ニューヨーク・タイムズの取材に、「公職選挙に出る計画はない」と一見明言したように見えた一方で、心変わりの可能性を聞かれ、「今日の段階ではそう感じている」と含みを持たせるような言い方をした。

 シュルツ氏は1982年、スタバの小売り事業責任者として入社。シアトルの小さなコーヒーショップを世界的なコーヒーチェーンに育て、事実上の創業者とも称賛される。

 その一方で、シュルツ氏は一風変わった経営者でもある。政治や社会で自身がおかしいと思った問題には黙っていられないのだ。女性や人種での差別、賃金格差、退役軍人の困窮…その関心は実に幅広い。実際、シュルツ氏は米軍基地の近隣で出店し、就職フェアで失業中の若者の雇用を進めた。東日本大震災の後には東北を訪れてもいる。

 シュルツ氏自身、米国人がこよなく愛するアメリカンドリームの体現者でもある。「貧しい家庭に生まれ、働きながら大学を卒業した。私が見たいのは誰にもチャンスがある米国だ」と、米誌フォーブスのインタビューに答えている。

 そんな姿勢が好感されてか、今回の大統領選でも候補に取り沙汰された。本人はトランプ氏に敗れたクリントン元国務長官を支持したが、9月にはCNNの番組で視聴者から「大統領選に出馬する気があるのか」と直球で質問され、「僕はまだ若い。この先どうなるか不明だ」とこれまた意味深げな返答をしている。

 次期大統領が決まったばかりなのにずいぶん気が早い話と思われるかもしれないが、実はそうでもない。理由はいくつもある。

 まず、そもそも長丁場である米大統領選は、よくマラソンレースにたとえられる。候補者選びから予備選を含めて実質1~2年程度に及ぶが、さまざまな関係者の思惑が交錯し、「極端な話、選挙が終わればもう次の選挙がスタートしている」(米議会関係者)とまでいわれる。

 とくに直近の選挙で敗北した政党の場合、政権奪回への支持者からの突き上げもあり、その危機感や巻き返しへの意気込みはハンパなものではない。今回の場合は民主党だ。選挙前もクリントン氏有利と伝える報道は多かったが、まさかの落選で陣営は青ざめた。

 支持者の民主党指導部への不満は甚大だ。次こそは失敗できないと指導部が焦るのも無理はない。

 また、トランプ次期大統領の発言や政策に国内外で批判が高まるなか、1期4年は保証されたとしても、「再選は厳しい」(エコノミスト)との見方が根強く、「次回大統領選では引きずり下ろせる」(議会関係者)とのもくろみが民主党内にもあるようだ。

 ただ、シュルツ氏が民主党と親密かといえば、これがそうでもない。シュルツ氏はかつて現職議員への政治献金を打ち切ると発表し、友人の経営者にも呼びかけたが、その対象には民主党議員も含まれていたのだ。その理由をシュルツ氏は「(議員らは)国民の福祉より党派やイデオロギーを優先している」と米メディアに語っている。

 「打倒トランプ」の切り札としたい民主党としても、シュルツ氏を担ぐのは容易ではない。本人に政治や行政での経験がないこともトランプ氏と同様だ。

 また、シュルツ氏は2008年にもいったんCEOを退任しているが、業績が悪化したため復帰した経緯がある。要は根っからの「スタバファン」(外食関係者)なのだ。今回もCEOは退くが会長にはとどまる。

 とはいえ、同じビジネス界出身のトランプ氏に対する対抗馬として、「シュルツ氏は悪いタマではない」(シンクタンク関係者)との声はある。政界の素人としての批判にも、トランプ氏だって大統領になれる、との反論が聞こえてくる。

 はたして半生にして伝説と化した外食の風雲児は、さらなる挑戦を選ぶのか。その一挙手一投足から目を離せない。(柿内公輔)