(上)北方領土返還交渉の扉重く 首相戦略、狭まる気配
日露の行方安倍晋三首相は15、16両日に臨んだ日露首脳会談での合意を踏まえ、経済や安全保障分野での関係強化を目指す。今後も首脳間対話を継続させることで、領土返還への糸口を探る構えだ。ロシア側に領土で軟化する姿勢は見えず、交渉の扉は重い。対露融和に意欲的なトランプ次期米大統領の登場でプーチン氏が「様子見」(官邸筋)に入ったとの見方もあり、首相が局面を進展させる余地は狭まる気配だ。
「北方四島の未来図を描き、解決策を探し出す未来志向の発想が必要だ」。安倍首相は16日の共同記者会見で、自ら掲げた新たなアプローチによる問題解決への決意を示した。
安倍首相は、ロシア国内で絶対的な権力を握るとされるプーチン大統領との首脳対話を通じ、領土交渉を進展させる方針だ。
来年9月に極東ウラジオストクで行われる「東方経済フォーラム」に出席。ウクライナ危機で中断した外務・防衛閣僚協議(2プラス2)の再開や、北方領土での共同経済活動を円滑に進める環境を整え、領土交渉へとつなげる道筋を描く。
対露交渉で追い風となっていた国際情勢は、変化の兆しを見せる。米大統領交代に伴う「権力空白期」に、米露の対立を利用する形で日露接近を図り、譲歩を引き出そうとの算段だった。日露接近は、対中牽制(けんせい)にも有効との思惑も働いた。
このシナリオが変調を来したのは、トランプ氏が対露融和姿勢を打ち出したためだ。これに沿うように、プーチン大統領は首相との共同会見で領土問題の早期解決に関し「放棄しなければならない」と言い切った。
来年1月にトランプ大統領が誕生した後は、日本にとって対露交渉はさらに厳しい状況になりかねない。プーチン大統領は2018年に自身の大統領選を控え「領土問題で妥協する可能性は限りなくゼロ」(日露外交筋)との見方が出る。ロシア経済に暗い影を落としていた原油安は、石油輸出国機構(OPEC)とロシアなど非加盟国の協調減産で歯止めがかかる見通しだ。北方四島での経済協力をてこに首相が動かそうとする日露間交渉は、再び機運がそがれる懸念が強まる。外務省幹部は視線を落とす。「ロシアが国際社会からの孤立感を打ち消す目的で日本に近づく必要はなくなってしまう」
日露首脳が2日間にわたり会談し、北方領土問題を含む平和条約締結交渉をめぐって議論を交わした。北方四島での共同経済活動の協議入り合意は、領土問題を動かす契機になるのか。両者の今後の戦略や思惑を探った。
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