タイ企業、ベトナム進出加速 消費急伸 10兆円小売市場に狙い
産業の集積地タイの企業が、ラオスとカンボジアを挟んで近接する社会主義国ベトナムで投資を行う動きが広がっている。貿易自由化の流れに乗って経済発展を一気に推し進めたいとするベトナム政府と、新たな市場の確保で国際化の波に乗りたいタイ企業との思惑が一致したからだ。進出ラッシュに沸くベトナムを訪ねた。
◆安くて高品質
ベトナム最大の商都ホーチミン。その中心部で、観光客にも人気が高いのが1914年開設のベンタイン市場だ。装飾品から衣類、雑貨、食料品まで、構内には大小合わせて1000以上の店舗がひしめき合い、年中無休で活気づく。
ここで最近、人気をじわりと高めているのが「メード・イン・タイランド」の製品だ。圧倒的に安価な中国製品やベトナム製品に比べ、品質に優れることから支持されている。市場で化粧品を扱うニンさんは「欧米製品や日本製品より安く、品質も優れたタイ製品は、1番人気だ」と笑顔で話す。
人口1億に近いベトナムでは、2010年頃から消費が急速に伸びてきた。これに伴い、小売市場が拡大している。英調査会社ユーロモニターによると、ベトナムの小売市場は15年末にタイを抜き、16年12月時点で規模が900億ドル(約10兆6119億円)に迫る勢いだ。20年には1000億ドルの大台に乗る見通しで、成長率は10年間で150%超に達するとみられる。
ベトナム市場の急成長を受け、タイの小売業者が販売攻勢を強めている。代表例が、「タイの百貨店王」で知られる巨大財閥セントラルグループだ。14年頃から本格進出を開始、今年4月には現地の大型スーパー「ビッグC」を経営母体の仏流通大手カジノ・グループから10億ユーロ(当時のレートで約1220億円)で買収した。セントラルグループ傘下の事務用品販売「オフィスメート」やコンビニエンスストア「ファミリーマート」と合わせ、ベトナム市場で事業を多角的に展開していく考えだ。
セントラルグループとタイで競合する新興財閥TCCグループもベトナムでの市場攻勢に打って出ている。独流通大手メトロ・グループがベトナムで展開していた卸売りチェーン「メトロ・キャッシュ&キャリー」を6億5000万ユーロで買収し、現地コンビニ事業などのてこ入れに乗り出した。
これらの買収劇により、ベトナム小売市場でセントラルとTCCを合わせたシェアは50%を超えた。ベトナム人の台所や暮らしをタイの企業が支える構図が鮮明となった。
◆他業界も支援
タイ企業のベトナム投資拡大は、食料品や生活日用品にとどまらない。タイで大規模工業団地を経営するアマタ・コーポレーションは、ベトナムで3カ所目となる外国企業向け工業団地を首都ハノイに近い北部クアンニン省ホンゲイ市に建設することを決めた。向こう10年余りで15億ドルを投資するとしている。
また、タイで賃貸倉庫や工業団地を展開するWHAコーポレーションもベトナムで16平方キロメートルの土地を確保、1期工事だけで10億バーツ(約33億円)を投入し、工業団地を建設する計画だ。
こうした動きに対し、タイの商業銀行も資金面で強力に支援する態勢を整えている。タイ商銀首位のバンコク銀行はホーチミン支店の資本金を8000万ドルから1億7000万ドルに引き上げる認可をベトナム当局から得た。ベトナムの法律では、一民間企業に対する与信は自己資本の15%が上限とされている。同行は、資本金増額で融資枠が従来の2.5倍に拡大した。このほか、上位行のサイアム商業銀行やカシコン銀行も支店や駐在員事務所を相次いで開設、タイ企業の現地支援態勢を強化していく。
ベトナム市場をめぐり、タイの他業界も動きが慌ただしくなってきた。損保大手バンコク・インシュアランスのベトナム進出が確実視されているほか、格安航空会社(LCC)をはじめ航空各社がタイ-ベトナム直行便を就航させるなど、業界の垣根を越えてタイ企業の進出を支援する動きが広がっている。民間銀行の市場調査では、タイ企業の3社に1社がベトナム進出に「関心がある」と回答したという。
ベトナム政府も外国企業が参入しやすくなるよう規制緩和などに積極的だ。従来は単独外資が認められていなかった小売業で100%単独出資を認めた。タイなどに後れをとる工業も、豊富な労働力を割り当てて外国企業の投資を募る方針だ。一方で、ベトナムの主力産業である繊維については国内法などで保護を進めていく。アメとムチを使い分けて経済発展を図ろうとする政府の意図が透けて見える。
環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)といった貿易自由化や技術革新などにも前向きなベトナムの小売市場は、タイ企業が支える構図が強まっている。(在バンコクジャーナリスト・小堀晋一)
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