フィンテック市場が拡大 20年に113億ドル規模へ

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首都ハノイの街中で携帯端末を操作しながら歩く男性。ベトナムは携帯を使った電子決済が急増している(AP)

 IT(情報技術)を駆使し、携帯電話による決済機能や資産活用などの新たな金融サービスを提供する「フィンテック」に世界の先進企業から注目が集まっている。フィンテックとは、金融(finance)と技術(technology)を組み合わせた造語だが、われわれ人間が大きな役割を担う。新たなサービスやシステムを考えて生み出すのは人間だからだ。

 ◆ネット取引が急増

 近年、ITの発展が著しいベトナムの企業でもフィンテック進出に非常に良い環境が整い始めている。2015年10月、起業家と投資家をつなげることを目的に、国内初のファンド運用会社ドラゴンキャピタルと英スタンダードチャータード銀行がスポンサーとなり、「ベトナム・フィンテック・クラブ」が国内最大都市ホーチミンで発足した。今年6月には、アジア最大級のフィンテックイベント「Blockfin Asia 2016」がホーチミンで開催された。

 ベトナムではインターネットのユーザーやネット取引が急増している。15年の統計によると、人口9130万のうち4100万人がネット利用者であり、総人口に占めるネット利用率は45%に上る。また、ネットを利用する4100万人の62%がネットショッピングの実績をもつ。さらに、ネットショッピング利用者の半数近い48%がネットバンキングで支払いを済ませている。

 このように、ベトナムでもITを活用した金融サービスは急拡大しており、16年の国内フィンテック取引総額は約53億ドル(約6224億円)だった。国内フィンテック市場は今後さらに拡大し、20年には約113億ドル規模に達すると予想される。

 現在、フィンテック市場のおよそ99%を電子商取引(eコマース)が占める。国内で起業したフィンテック関連企業は、39社のうち22社が電子決済サービスなどを主業務としている。現金の入った財布に代わって、スマートフォンなどの携帯端末を支払いに活用できるeウォレットサービスの「MoMo」で知られるM-Service JSCは、全国63省のうち45省で約150万人のユーザーを抱える。同社は3月に、スタンダードチャータード銀行と米ゴールドマンサックスから計2800万ドルの融資を受け、国内事業の拡大を目指している。

 ◆規制緩和と法整備

 国内のフィンテック市場が拡大する一方で、発展の障壁となりうる問題も残されている。その一つが、法整備の遅れだ。現在の法制度では、基本的なeコマースに関する規制は存在するが、ITを使った資産運用といった金融サービスに関する法律はまだ整っていない。また、政府による国外送金の規制や、既存の銀行などが金融サービス市場で絶大な力をもっていることも、ITベンチャー企業が中心となって展開するフィンテック産業の発展の障壁になると考えられる。

 今後、ベトナム市場に優良なフィンテック関連企業が国内外から参入し、この産業が発展するためには、法整備や金融規制の緩和、既存金融機関とITベンチャーとの共存が可能となるような環境を整える必要がある。フィンテック市場の拡大に向けて政府当局の速やかな対応に期待したい。

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 B&Company株式会社:日系で初・唯一のベトナム市場調査専門企業。消費者や業界へのアンケート・インタビュー調査と参入戦略を得意分野としている。b-company.jp

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