トランプ氏は新興企業が嫌い? 米国の株式相場は政治を先読み
米運用会社ヘネシー・ファンズ主催の記者会見で、地元記者が同運用責任者のニール・ヘネシー氏にこんな疑問を投げかけた。「なぜ、ダウ工業株30種平均を基準に相場の見通しを立てるのですか」
ヘネシー氏はダウ平均が最高値をつけると予想してきたが、質問者は同氏の相場観を聞いたわけではない。「ダウ平均が市場実勢を反映しているのか」と株価指数としての正当性をたずねたのだ。
19世紀に発案されたダウ平均は単純平均だし、米大企業30社と少ない構成銘柄が人為的な作業で決まる。時価総額をもとに株主価値を計算するプロの世界では敬遠されやすい。米国の株価指数として最も参考にされるのは、米大企業500社の時価総額を加重平均したS&P500種だ。
だが、米大統領選以降、「ダウ平均はアテにならない」とするウォール街の常識が揺らいでいる。業種別、規模別とあまたある株式指数のなかで、ダウ平均の上昇率が際立っているからだ。
特に、情報技術(IT)など新興企業で構成されるナスダック総合指数との差が大きい。16日終値でダウ平均が大統領選投票日だった11月8日比で約8%上げているのに対して、ナスダック指数は約4%高にとどまる=グラフ。
通常、各株式指数は連動する。だが、投票日を起点にダウ平均とナスダック指数の相関性を調べると、11月半ばから12月上旬までは逆方向に動くマイナスの関係だった。
理由はずばり、政治だ。トランプ次期大統領が経済政策で見せる二面性である。
トランプ氏はダウ平均を構成するエネルギーや金融といった「オールド・エコノミー」の企業が直面する規制を見直す。トランプ氏の経済指南役、投資家のカール・アイカーン氏は石油業界を利する環境基準の緩和を求めている。財務長官に指名されたスティーブン・ムニューチン氏は銀行経営を圧迫していた金融制度改革法の改正論者だ。
一方、ナスダック指数で比重の高いITの事業モデルに対して、トランプ氏は批判的だ。インターネットやビッグデータを活用して中抜きを狙う「ニュー・エコノミー」の企業は「オールド・エコノミー」企業と比べて、雇用を生みにくい点が背景にある。
14日、トランプ氏が居を構えるマンハッタンのトランプタワーに、地元メディアが殺到した。大統領選の対抗馬だった民主党のヒラリー・クリントン前国務長官への支持を表明していた、ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)大手のフェイスブックといったシリコンバレーの首脳陣がトランプ氏と会談したためだ。
最も注目されたのが、米電子商取引大手アマゾン・ドット・コムのジェフ・ベゾス最高経営責任者(CEO)の出席。いつも笑顔のベゾス氏だが、この日の対談では始終むっつりとしていた。
それもそのはず。ベゾス氏所有のワシントン・ポスト紙はトランプ氏批判の急先鋒(せんぽう)だ。ベゾス氏は「ロケットでトランプ氏を宇宙に飛ばす」との趣旨の冗談を飛ばしたこともある。
対して、トランプ氏もベゾス氏を敵視してきた。海外で現金をため込むIT企業の代表格としてアマゾンをやり玉に挙げ、独禁法の適用すらちらつかせていた。
ウォール街には、「FANG」と呼ばれるナスダック指数を代表する成長企業群がある。アマゾン、フェイスブックに加えて、有料動画配信最大手のネットフリックス、ネット検索のアルファベットの4社を指す。
「FANG」の合計従業員数を最終利益の総額(100万ドル単位)で割ると11人。一方のダウ平均銘柄で23人。「FANG」はダウ平均銘柄の半分の割合でしか、利益に対して雇用を生んでいない。
19世紀初めの英国では、労働者が「ラッダイト」と呼ばれる産業革命に抵抗する運動を展開した。労働者は当時のハイテク機器だった紡織機を破壊した。
トランプ氏に対する米労働者階級の支持活動も「ラッダイト」に通じるものがある。雇用の輸出や格差拡大に対する不満が根底にあった。
「雇用を米国に取り戻す」と訴えるトランプ氏。労働集約的なダウ平均銘柄に有利な政策を打ち出し、シリコンバレーの企業群を敵視するのは自然の流れだ。
例えば、トランプ氏は大型の法人減税を約束しているが、新興企業は、減税のメリットを享受しにくい。税法上の利益をほとんど生んでいない銘柄が多いためだ。株式相場は次期政権の政策効果を先読みしているのである。(ニューヨーク駐在編集委員・松浦肇)
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