中小のIT化加速 潜在成長率高める

新春に語る

 □日本商工会議所・三村明夫会頭

 --昨年は英国の欧州連合(EU)離脱決定など、大きな出来事があった

 「想像を絶するような政治的なサプライズが発生し、社会が不安定な動きとなった。しかし、冷静に振り返ってみれば、政治的混乱が大きかった欧州各国も1%台半ばの経済成長をしているし、米国は昨年12月の利上げ実施に象徴されるように、経済に対する確信を持っている。それもトランプ次期大統領への期待で起きている株高などの『トランプ現象』とは別のものだ。また、最近は中国経済に対する懸念も議論されなくなっている。不安はあるものの、かつての10%を超える成長率から6%超のペースへ軟着陸を果たしそうな状況だ。東南アジアでも大量の中間層が誕生し、消費の拡大や日本への観光などのインバウンド需要を生むことになるだろう」

 --日本経済も大きく動いた

 「株価や為替は大きな変動があっても、ほぼ1年前と同水準になっている。各国の金融緩和による世界的な金余りの中で、さまざまな事象が起きるたびに、リスク回避として安全資産といわれる円を買う動きが活発になって、大きな振幅をみせてきたからだ。金融市場の大きな変化に目をとらわれがちだが、1年たって元の水準に戻ったのは、しっかりした経済のファンダメンタルズがあったためだ。このことも認識しておかなくてはならない」

 --今年はどのような年になるか

 「欧州ではフランス、ドイツなどで選挙があり、シリア情勢は出口がみえない混迷状態になった。さらに、トランプ氏が1月20日の就任後にどのような外交・経済政策を出すかにも注目が集まる。トランプ氏が保護主義的な政策を打ち出せば、経済の下振れリスクは強まることになるので、金融市場の振幅は昨年以上に大きなものになる覚悟が必要だ」

 --円安ドル高の環境をどうみる

 「為替が(1ドル=)115~120円という状況が続くのなら、大企業の今年度の業績は過去最高益とか、それに近い高水準となるだろう。重要なのは米国だ。トランプ氏が打ち出す法人税、所得税の減税、インフラ投資などの施策が、景気刺激策として成長路線に移す。さまざまなリスク要因があったとしても、ある程度の期間はプラスの効果の方が大きいとみている。その上、日本では大規模金融緩和を継続する一方で、米国は利上げを進めていき、日米金利差から円安が進みやすい。このため、今後2年間は現在の環境が続くとみている。これは日本経済にもプラスに働き、企業、産業界、政府にとってはさまざまな改革を進める猶予ができる」

 --その2年間に取り組むことは

 「アベノミクスはすでにメニューははっきりし、取り組む方向は決まっている。ただ、人手を増やし、生産性を向上させ、設備投資を拡大するサプライサイド(供給側)政策は時間がかかる。この2年間の猶予の中で改革を進めるべきだ。家計ではデフレマインドを払拭することが重要だ。企業にとっては、省力化投資や統合再編、M&Aなどに積極的に取り組み、生産性の向上を図る必要がある」

 --中小企業の課題は

 「最大の課題は人手不足だ。今後、年間数十万人規模での労働人口の減少の中では、女性や高齢者の活躍推進を加速させることが必要だ。同時に、情報技術(IT)化を進めて、生産性を上げることにも取り組まなくてはならない。クラウド化やソフトウエアがパッケージ化され、導入も簡単になっているし、同時にIT技術も等比級数的に進歩するなかで、経営者がITだけでなく、IoT(モノのインターネット)、人工知能(AI)の導入などで生産性を向上すべきだ。政府も2年間でITコーディネーターを1万社に派遣し、中小企業のIT化加速に乗り出している。現在0.2%とされている潜在成長率を引き上げていくことが大きな課題となる」

 「さらに課題となっているのが、事業承継だ。この15年間で40万社が減っているが、人手不足と後継者不足が大きな要因だ。来年度の税制改正で一定の対応策は出たが、まだまだ進めていく必要がある」

                   ◇

【プロフィル】三村明夫

 みむら・あきお 東大経卒。1963年富士製鉄(現新日鉄住金)入社。新日本製鉄(同)社長、会長を経て2012年から新日鉄住金相談役。13年11月から日本商工会議所会頭。76歳。群馬県出身。