日本企業、新政権に一喜一憂

トランプ次期大統領
11日、当選後初めて記者会見するトランプ次期米大統領=ニューヨークのトランプタワー(ロイター)

 トランプ次期米大統領の就任式を20日(現地時間)に控え、日本企業は新大統領の動向を注視している。「米国第一」を掲げるトランプ氏が保護主義的な政策を進めれば、日本企業にとって逆風だ。一方で、インフラ投資の拡大など新たな商機に注目する動きもある。(佐久間修志、平尾孝)

インフラ投資、商機拡大に期待

 トランプ次期大統領の就任に伴い、日本への経済効果が期待されるのは、交通分野を中心としたインフラ投資の加速だ。トランプ氏は選期間中の公約ともいえる「100日行動計画」において、10年間で1兆ドル規模のインフラ投資を促すとしたほか、当選後には政権移行チームのウエブサイトで、道路や橋梁(きょうりょう)、鉄道、空港などの交通システムに対し、5500億ドルの投資をすることを明らかにした。

 米国は1930年代のニューディール政策で整備された社会インフラの更新が進まず、「既存インフラの大半が建設後50年以上経過している」(国土交通省)とされる。インフラ投資の加速はトランプ氏が重視する米国内の雇用改善にもつながるため、大規模な投資がなされる可能性は高い。

 日本が関わる大規模プロジェクトとして有望視されるのが、テキサス州のダラス-ヒューストン間で計画されている高速鉄道計画でJR東海のN700系車両が導入される見通しだ。民間投資で進める事業の枠組みも「トランプモデルに合う」(米事業会社の幹部)と期待され、税優遇など政策の後押しがあれば、運営が早い段階から軌道に乗る可能性もある。

 三菱地所は米国子会社のロックフェラーグループを通じ、ニューヨーク州の再開発事業などを手がけており、ビルの建て替え需要が膨らめば強みを発揮しそうだ。主要な空港施設に水洗トイレを含む設備機器の納入を進めるTOTOは、老朽化する空港施設の更新に伴う、受注機会の増加に期待を寄せる。

 大和総研の中里幸聖主任研究員は「インフラ整備では現地企業が優遇される可能性が高いが、日本の技術が生かされる分野ではビジネス拡大の余地があるだろう」と分析している。

NAFTA見直し警戒

 トランプ氏がメキシコの自動車工場に対する投資を批判し、北米自由貿易協定(NAFTA)見直しにも言及する中で、日本企業もメキシコ進出などの計画変更を余儀なくされそうだ。財界人や経営トップから警戒する発言が相次いでいる。

 「一番の懸念材料だ」

 経団連の榊原定征会長は、トランプ氏の一連の言動の中でも、NAFTAの見直しに強い警戒感を示す。「NAFTAの枠組みを前提とするビジネスモデルが変わり、メキシコ進出をためらう企業が出てくる」恐れがあるためだ。

 NAFTA域内は米国への輸出に関税がかからない。このため各社は、メキシコを米国向けの生産拠点として重視している。

 特に日系自動車メーカーは2013年に80万台だったメキシコでの生産が、15年は約130万台と1.6倍に拡大した。日産自動車やトヨタ自動車が今後、工場の新・増設を計画通りに実施すれば、19年には190万台に達する見通しだ。ホンダの伊東孝紳取締役相談役は「NAFTA存続を強く求めたい」と語る。

 自動車部品や関連素材などの分野でも、各社は現地生産進出を本格化する構えだった。旭化成は自動車用機能性樹脂を増産するため、メキシコに新工場建設を検討した。だが、伊藤一郎会長は「メキシコでの生産という選択肢は見直さざるを得ない」と話す。自動車用ガラスを生産する旭硝子も、当面はメキシコの追加投資を見送るもようだ。

 経済界は、トランプ氏の一連の発言がどれだけ実現するのかを注視している。経済同友会の小林喜光代表幹事は「米国の失業率が極めて低くなった中で、雇用創出を強調する意味がわからない」と指摘する。

 日本商工会議所の三村明夫会頭は米国へ100億ドルの投資を表明したトヨタを例に、他の日系企業も米国での雇用に貢献していることを強調すべきだと強調。「今は米国で投資して、雇用創出にも貢献している。今後も貢献することを訴え(メキシコ新工場などの)計画を進めるべきだ」と主張した。