国益重視強まるサイバー空間 国民データの保護・活用急務

論風

 □日本危機管理学会理事長 国際社会経済研究所主幹研究員・原田泉

 英国が欧州連合(EU)を離脱し、米国では反移民、反グローバリズムのトランプ政権が誕生する。世界中があたかも自国利益中心のネオナショナリズムの時代へと向かっているかに見える。わが国も良きにつけ悪しきにつけ、その影響は受けざるを得ず、特に米国とはこれまで以上に是々非々の対応が求められそうだ。

 ◆海外に流れる個人情報

 現実の世界の反映であり先取りでもあるサイバー空間においても、国益を重視する方向に動いている。インターネットの統治において国家主権を主張しているロシア、中国、途上国に対し、米欧日の先進国は自由で国境のない世界という主張で対抗してきた。

 それが2013年のスノーデン事件によってネットが米国の世界通信監視システムであることが明らかにされると、欧州は個人情報保護を掲げて域内市民の知的財産とプライバシーを守ることを鮮明にし、域益中心へと舵を切った。さらに、ロシアや中国といった国々は、ネットを流れる自国民の個人データを守るため、自国内で発生した個人データは自国のデータベースに保存することを義務付ける法律を制定して、国益を守ろうとしている。

 一方、IoT(モノのインターネット)、ビッグデータ、ロボット、人工知能(AI)などの技術革新により、第4次産業革命が始まった。ここではデータの利活用が付加価値の源泉になる。その中でGAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)の米4大ネット関連企業は、日本はもちろん世界中のユーザーがスマホやパソコン上で入力するデータやウェブの配信サイトから提供される音声・映像などのいわゆるバーチャルデータを広く収集し、ビジネスで利用している。そればかりかこれらの個人情報は現在でも米国家安全保障局(NSA)に提供され、米国の国益に寄与しているのである。

 ◆日本の技術力で対抗

 日本は、このような状況下、いかに対処すればよいのか。

 改正個人情報保護法(15年9月成立)によりEUと同等の域外適用も可能となり、日本国内でGAFAなどが収集した個人情報を米国の政府機関に渡しているとすれば、法的取り締まりの対象となる。しかし実際には犯罪証明も困難であり、スマホを使わないわけにもいかず、泣き寝入りするしかない。

 ビジネス面では個人のバーチャルデータ収集で日本企業に勝ち目はなく、機械間や企業間でのさまざまなセンサーが生み出すデータ、いわゆるリアルデータの収集と利活用で勝ちに行かねばならない。すなわち工場の稼働データ、都市スマート化のための交通関連データや気象データなどの利活用である。しかしそこでも欧米企業によってプラットホームの事実上の標準化が進みつつあり、迅速な対応が求められる。

 半面、リアルデータの場合必ずしもスマホとつなぐ必要もなく、サイバー攻撃を回避する面からもネットの通信方式とは別の方式を使えばよい。そのほうが莫大(ばくだい)なデータを高速で送ることも容易にできる。ネットを使えば世界中と直接つながるため、利便性とコスト面で極めて有利である。しかし、そのメリットとサイバー攻撃を受けるなどのデメリットとを勘案すれば一定の部分に別の方式を使う余地が十分あると思われ、ここで日本企業の優位性を発揮し、技術革新を行うべきである。

 一方、安全保障の面からは、国際テロ情報の提供や隣国からのサイバー攻撃対応では日米協力の強化を図ることが肝要である。しかし他国からの通信傍受や標的型メール対策では、わが国独自の暗号開発強化とAIによる未知の攻撃への防御の研究開発深化が不可欠となる。そこでは米国とも一線を画さなければならず、自らの国を自らが守るという国としての矜恃(きょうじ)を示すべきである。

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【プロフィル】原田泉

 はらだ・いずみ 慶大大学院修士修了。日本国際貿易促進協会などを経てNEC総研から国際社会経済研究所へ。現在同主幹研究員。早稲田大学非常勤講師なども務める。60歳。東京都出身。