経済運営は荒波続き? 新政権の「3つの難題」とは…

トランプ大統領就任
就任式で宣誓を終え、歓声に応えるトランプ米新大統領=20日、ワシントン(ロイター)

 トランプ米政権がついに船出した。米国内での雇用創出やインフラ整備など景気浮揚への期待が先行したが、実は市場の「トランプ熱」は早くも冷めつつある。トランプ氏の経済政策運営と日本経済への影響を読み解く3つのキーワードを検証した。

 第1のキーワード、それは「財政」だ。

 皮肉にも、トランプ氏が目の敵にしてきたオバマ前政権が未曾有の金融危機を乗り切ってくれたおかげで、新大統領の経済運営は一見切羽詰まったものではないように映る。

 確かに2009年に一時は10%に達した失業率は、足元では実に半減。「賃金も住宅価格も上昇の軌道へと転じた」とオバマ前大統領が誇る気持ちが分からぬでもない。筆者は14年まで産経新聞特派員として米国に赴任し、オバマ政権の政策運営と米経済を取材する機会を得たが、確かに米経済を占うバロメーターである個人消費が拡大するのを肌で感じた。

 だが、リーマン・ショックで息も絶え絶えの米経済をてこ入れするため、オバマ氏は1期目だけで7870億ドルもの景気対策を実施。湯水のように財政出動した結果、連邦債務はブッシュ政権時代の10超ドルからほぼ倍増した。トランプ氏は今後10年で1兆ドルのインフラ投資を掲げ、日本でもインフラ関連などの「トランプ銘柄」が一時急騰したが、巨額の財政出動を続ける余裕が今の米国にあるのかは疑問だ。

 果たして、トランプ氏は就任が近づくや、米国で活動する海外企業へ米国内での投資と雇用創出を声高に要求し始めた。日本企業も例外ではなく、トランプ氏にメキシコ工場計画を批判されたトヨタ自動車が1・1兆円の米国投資を表明するなど、新政権に早くも振り回されている。

 第2のキーワードは「貿易」だ。トランプ氏はトヨタに対し、「米国で工場をつくれ。さもなければ巨額の『国境税』を支払え」とかみついた。「国境税」が何を指すのか、関税の一種か、それとも新たな法人税にあたるのかといった論議も巻き起こしたが、最近も米紙の取材に「ドルは強すぎる」と発言。通貨安競争を戒めるサミットなどでの国際合意に反した言動に、財務長官に指名されたムニューチン氏があわてて「ドルは強く、世界中の人々が投資したがっている」と火消しに追われたが、トランプ氏が保護主義に傾いていることは確かなようだ。

 トランプ氏は記者会見でも米国のこれまでの通商政策を「大失敗」と切り捨て、日本や中国を名指しし、「貿易不均衡がある」と強い不満を訴えた。オバマ政権は金融危機こそ脱したものの、所得の格差が拡大。それに不満を抱く製造業などの労働者が、トランプ政権誕生の「立役者」ともなっただけに、矛を簡単に収めるとは思えない。

 そして、第3のキーワードには「外交」を挙げたい。経済と関係があるのかという声が聞こえてきそうだが、大ありだ。トランプ氏のモンロー主義で、中東・アジアでの米国のプレゼンスが低下すれば、日本を含めた各国は自前で外交問題を処理するコストがかさむ。第一生命経済研究所の熊野英生首席エコノミストは「仮に地政学的リスクに米国が介入しなくなると、資源価格が上昇する要因にもなる」と指摘する。

 米国債市場ではこのところ長期金利が低下している。インフラ投資などで米経済が成長すれば、マネーは株に流れ、債券価格は下落(金利は上昇)するのが普通だが、「そのシナリオに懐疑的な市場参加者が増えている」(証券関係者)ようだ。東京市場でも、トランプ氏が大統領選で勝利し、右肩上がりで2万円に届くかとみられた日経平均株価も勢いが鈍っている。

 もはや、トランプ大統領の資質や就任の是非を問う時期は過ぎた。政府も産業界も、いかにこの異質なプレジデントと向き合い、日本の経済を混乱させず、むしろ発展させていくかを考えねばならない。SankeiBizも、その観点を軸に新政権に注目していく。(柿内公輔)