業界変える「配車アプリ」 拓殖大学名誉教授・藤村幸義

専欄

 北京の中心街でタクシーを拾おうとしたが、なかなかつかまらない。空車が来てもみな、通り過ぎて行ってしまう。10台ほどやり過ごした後に、ようやくつかまえることが出来た。北京のタクシーは以前から台数の少なさが問題になってはいたが、空車が来ても止まらないということはあまりなかった。

 その原因は「配車アプリ」の普及である。5、6年前から登場し始めたが、参入する会社が相次ぎ、あっという間に市場に浸透してしまった。市民にとっては、予約を入れさえすれば、間違いなく来てくれるので、街中でつかまらずにイライラすることがなくなる。空車が来ても止まらないのは、それらの多くが予約客のところに向かう車であるからだった。

 ところが既存のタクシー会社は、客を奪われてしまう。やむなく「配車アプリ」に参入するタクシー会社も出てくる。運転手も仲間から「配車アプリの方が儲(もう)かるぞ」と誘われて、「配車アプリ」の会社に移籍する者が続出する。こうしてタクシー業界の地図は大きく塗り替わっていった。

 もっとも「配車アプリ」といっても、中には営業許可を受けず、自家用車を使ってタクシー営業している車も少なくない。

 実際に法外な料金を請求されたりするなどのトラブルも頻発した。既存業界からは「配車アプリ」は安全上の問題があると、厳しく指摘される。

 政府も当初は「配車アプリ」に冷たい姿勢をみせていたが、ここまで普及してしまうとそうもいっておれない。タクシー台数が増えれば、タクシー不足の問題は解消する。安全問題についても、インターネットを通じて運転手と乗客の利用記録が残るので、犯罪は起きにくいという側面もある。そこで「配車アプリ」を認め、管理規則を整えていく方針に切り替えた。すでに北京市をはじめ、多くの都市で管理規則の細則が発表されている。

 ところが例えば北京市の場合は「運転手は北京市の戸籍を持っていなければいけない」のほかに、車の整備についてもかなり厳しい条件を付けている。

 困ったのは「配車アプリ」の会社だ。ある会社の場合は、そうした条件に適合するのは、保有台数の1割程度でしかないという。そうなると、予約を取ろうとしても順番待ちにならざるを得ず、以前よりもタクシー不足が深刻化してしまう事態になりかねない。