まさに「電光石火の早業」 安倍総理訪米を手放しで評価する
高論卓説「麻生-ペンス」ライン 長期政権効果発揮
まさに「電光石火の早業」と言っていい。安倍晋三総理の訪米を手放しで高く評価したい。報道では、通常の首脳会談に加えて別荘に招待され、ゴルフや食事を共にして信頼関係を深めた点が強調されているが、実務的には以下の3つ、すなわち、(1)英国メイ首相の後塵(こうじん)は拝したが、各国に先駆けた首脳会談の実現(2)尖閣を含む日本防衛への米国のコミットメントの明示(3)麻生太郎副総理とペンス副大統領をトップとする経済対話の枠組みの確立-などが大きい。
もちろん、イスラム圏7カ国からの入国禁止令など、内外で物議を醸す施策を打ち出すトランプ大統領にべったり寄り添うことが良いのか、と非難する声もある。そうした気分もあってか、異例の厚遇にもかかわらず、欧米のメディアでの扱いは小さい印象だ。
ただ、経済産業省時代に資源・援助外交に何度となく携わった経験からは、外交にはリスクが付きもので、当該国での政権交代や、ひどいときにはクーデターによる失脚も覚悟しつつ、ばくち的に「張ら」ないと果実は得られない。現在の日本の地政学的位置づけからは、米中が接近して頭越しにアジア太平洋の秩序を決めることが最大のリスクであり、国益思考に徹して「トランプ氏への接近」に張り、信頼構築に成功したことは大きい。
そもそも、もともと世界中が「ヒラリー・クリントン大統領」を想定していた中、ここまで短期間に路線変更して対応できたのは、かなりの早業である。企業・国家の経営の違いを問わず、あらかじめ「戦略を描く」のと同様に、新事態に機敏に対応することは死活的に重要だ。経営学では「柔道のメタファー」と言われるが、実際の戦略の巧拙は「受け身」をどう取るかで決まる。安倍内閣は、諸外国の政権と比べて、特にこうした「実務的動き」「機敏な危機管理」に優れていることは明らかだ。
その最たる成果が、先述した「麻生-ペンス」ラインでの新しい経済対話枠組みの構築だ。わが国にとってのトランプ政権誕生に伴う最大の懸念が、日米2国間の通商交渉の再開、特に農業や自動車分野を中心とした圧力であることは論をまたない。悪名高き「スーパー301条」などを持ち出されて2国間で押し込まれ、何とかマルチの枠組み(WTOなど)に持ち込んだ歴史が脳裏をよぎる。ここに至っては、交渉自体からは逃げようがないが、新経済対話では、主に以下の3点で、この懸念が緩和される。
(1)「経済対話」であり、安保は切り離す(「日本を防衛しない」というカードを極力切らせない)(2)国家通商会議トップのナヴァロ氏などの強硬派ではなく、トヨタ自動車などの米国での雇用創出に理解のあるインディアナ州知事でもあったペンス氏を対話のヘッドに引っ張り出す(3)通貨問題という先方の論点にも麻生氏であれば担当的にカバーできる(しかも、役者はペンス氏より麻生氏の方が恐らく上)-ことなどだ。
普通なら先方からの要求を恐々と受け身で待ち構えるところ、先制攻撃をしかけて(こちらから提案して)、麻生氏を持ち出して有利な枠組みを成立させてしまったのはさすがである。トップ同士で仲良くして、面倒な課題は「上司をおもんばかる下」に調整させ、時間稼ぎをする、という面も多分にあろう。乱戦での安倍政権の強さを示している。
今回はスタートであり、時間軸を含む戦略眼からは、今後の油断は禁物だ。トランプ氏の主戦場であるビジネス交渉では「上げて、落とす」のは常套(じようとう)手段であり、安倍総理「接待」会場の「マール・ア・ラーゴ」を、脅しあげて相場の約4分の1で買いたたいたとも言われる同氏が今後、タフ・ネゴシエーターぶりを見せてくる可能性も捨てきれない。ただ、まずは、今回の安倍総理・政権の対応を手放しで評価したいと思う。
最後に、紙幅の関係で詳述はできないが、反射的効果としてロシアのプーチン氏への影響が大きい点も指摘しておきたい。米露の橋渡し役としての日本という可能性を大きく示したことは間違いない。
そもそも今回のトランプ氏の異例の厚遇は、首脳外交経験の豊富な安倍総理に、プーチン氏をはじめ、各国首脳の人柄やその他の情報を聞くためだった面もあるはずだが、長期安定政権は、特に外交で大きな武器になることを改めて見せつけられた。残念ながら、国内改革では踏み込み不足が目立つが、わが国の国益のため、この安定政権が続くことを望みたい、と改めて感じた次第である。
◇
【プロフィル】朝比奈一郎
あさひな・いちろう 青山社中筆頭代表・CEO。東大法卒。ハーバード大学行政大学院修了。1997年通商産業省(現経済産業省)。プロジェクトK(新しい霞ヶ関を創る若手の会)代表として霞が関改革を提言。経産省退職後、2010年に青山社中を設立し、若手リーダーの育成や国・地域の政策作りに従事。中央大学客員教授。43歳。
関連記事