父親の誕生記念日前の冷酷な兄暗殺 金正恩氏の残忍さ、国際社会に強く印象づける

 
金正恩朝鮮労働党委員長(右)=平壌(AP)

 【ソウル=名村隆寛】北朝鮮では16日に故金正日総書記の生誕75年の記念日を迎える。金正恩朝鮮労働党委員長の異母兄、金正男氏は、父の誕生日直前に命を奪われた。暗殺指令を出した可能性が取り沙汰される金正恩氏は、その冷酷さを内外に見せつけた格好だ。

 1997年2月に韓国で起きた金正男氏の母方のいとこ、李韓永氏(82年に韓国に亡命)の暗殺や、2013年12月の金兄弟の叔父、張成沢氏の処刑など、過去の一族の血まみれの処断に比べ、正男氏殺害が外部に与えた衝撃は大きい。正男氏が国際的に知られた存在だったためだ。

 記念日前を狙った殺害した計画性も否定できない。「父の誕生日であろうが、兄であれ消すべき者は抹殺する」といった姿勢がうかがえ、正恩氏の残酷さは世界に印象づけられた。

 正男氏は、北朝鮮による「新型弾道ミサイル」の発射に合わせたかのように殺害された。このタイミングの一致も偶然とは言い切れない。2つの事件は国際社会に衝撃を与え、正恩体制にとって対外的な相乗効果をもたらしたからだ。

 金正男氏殺害で「次は誰の番だ」という恐怖感も広がり、韓国では「正男氏の息子のハンソル氏(22)も命を狙われる可能性が高まってきた」(朝鮮日報)との見方も出ている。

 ハンソル氏はフィンランドのテレビで「叔父がどうして独裁者になったのかは知らない」と、正恩氏を「独裁者」と呼んだことがある。正男氏の血を引いており、標的になる可能性も否定できない。

 正男氏は正恩氏とは違い、北朝鮮国内で公式な場に現れたことがなく、北朝鮮内部に影響があるかは不明だ。ただ、韓国軍は16日にも北朝鮮に向け、軍事境界線付近で金正男氏の暗殺を知らせる「対北政治宣伝放送」を行う見通しだ。このため、兄を殺した正恩氏の残忍さが北朝鮮内部に広まるのも時間の問題だ。

 北朝鮮では例年、金正日氏の誕生日は追悼と祝賀のムードに包まれるが、今年は金正日氏の息子同士の暗殺劇を黙殺した冷淡な記念日となる。