民間活用しコンベンション施設複合化 IR時代のMICE戦略 クールジャパンの発信基地
東京五輪が開催される2020年には訪日外国人観光客を年間4000万人に、その後は同6000万人を目指していく-。この国策の実現に向けた集客の柱として、国際会議や報奨旅行、見本市などを誘致する「MICE」戦略と、その受け皿となる施設の創出のための統合型リゾート(IR)構想が注目されている。今後のIR時代のMICE戦略とはどういったものなのか。国際観光産業振興議員連盟(IR議連)の幹事長を務める岩屋毅衆議院議員とMICEで多くの実績を有するコンベンションリンケージの平位博昭代表取締役が、訪日外国人観光客の誘致について対談した。(司会進行・青山博美)
--2016年末に統合型リゾート(IR)推進法が成立しました
岩屋毅衆議院議員 推進法では、法の成立から3カ月以内に政府内にIR推進本部を立ち上げること、20人の委員からなる推進会議を設置して具体的な内容を検討すること、1年以内に実施法を作成し国会に提出することなどを定めている。これに合わせ、近くIR推進本部と推進会議が発足し、具体的な検討がはじまります。
--こうした施策を、訪日外国人観光客誘致の柱の一つであるMICE(国際会議や報奨旅行、コンベンションなど)の活性化にどうつなげていくのかが最大の課題といえそうです
平位博昭代表取締役 日本におけるMICEビジネス、つまりコンベンションビジネスについて簡単に振り返ってみたいと思います。舞台となる本格的な施設は、1956年の大阪・朝潮橋の見本市会場が最初でした。59年には東京・晴海にも見本市会場が完成します。64年には東京五輪が開かれ、そして66年にいまも稼働している国立京都国際会館が建設されました。このあたりが、揺籃(ようらん)期といえます。その後、80年代になると、大ブームが起きます。ソフト(コンベンション運営会社)、ハードとも新規参入ラッシュがあり、日本の各地にコンベンション施設が建設されたり計画されたりするようになりました。アリーナやスタジアムも含め現在の日本の施設は、このころに竣工(しゅんこう)、あるいは計画されたものが中心です。その後、日本経済はバブル崩壊やリーマン・ショックなどに襲われ、失われた20年に突入していきます。しかし、その前までは世界のコンベンション業界の中でハード、ソフトともトップレベルだったと思います。失われた20年を経て、日本のコンベンション施設環境はアジアの中でも遅れてしまったと言わざるを得ません。そうした中で今、政府が推し進めるMICE戦略もあり、またインバウンドビジネスの観点からも再度注目を浴びています。では、今後どういった視点でこの動きを進めるべきでしょうか。大都市と地方では規模も含め当然戦略は違ってくるでしょうが、共通キーワードはコンプレックス(Complex)です。かつては会議場、展示場、ホテルを3点セットと称しコンベンションセンターの完成形を意味しましたが、国際競争が激化した現在ではショッピングセンターやエンターテインメント・アミューズメント施設、アリーナなど、さらなる複合化(コンプレックス化)が求められています。この「複合化」はIR推進法のIと同義だと思います。今後日本のMICE戦略が成功するためには、コンベンション施設の機能をどう多様化、複合化していくかにかかっているように思います。カジノなどもその一つかもしれません。
岩屋 そうですね。統合型である必要があります。IR推進法は、よくカジノ解禁法のようにいわれますが、そもそも法律をよく見ていただければ、と思います。特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律というのが正式名称ですが、「特定複合観光施設」については会議場や展示場、大規模なホテルに加え、さまざまなエンターテインメント施設が統合的に運営される施設、と定義しています。その中の一部に、世界130カ国で合法化されているカジノも導入しよう、という考え方であり、カジノばかりがクローズアップされる現状には違和感があります。
--失われた20年で、日本のコンベンション環境は米国などから大きく後れをとってしまいました
平位 面積という点では、日本最大の東京ビッグサイトでさえ世界ではトップ60にも入りません。面積だけで比較すべきものではないのですが、世界第3位の先進国という点では、弱すぎるように思います。
岩屋 では、そうしたMICEのための受け皿をどう整備していくのか。このあたりもよく考えたいところです。例えば大規模なコンベンション施設を、単体で、しかも税金を投入して公共事業で作るのが果たして適切なのだろうか、という疑問があります。むしろここは知恵を絞り、民間の活力を適切に導入してMICEの機能を高めていこう、というのがIR構想の大きな目的の一つなのです。
--最善の方法を模索しつつ、今後は機能も規模も拡充していく必要がありそうですね。政府は東京五輪が開かれる2020年に年間4000万人の訪日外国人観光客を誘致しよう、という戦略を打ち出しています。これは現在の2倍におよびます
岩屋 インバウンド観光は、昨年だけで約400万人増、率では22%増と著しい伸びを示しています。これだけ急激に伸びている分野はほかに見当たりません。しかし、20年に4000万人、その10年後の6000万人という目標を達成するためには、宿泊施設も足りません。観光資源も美しい自然や歴史、伝統・文化といろいろありますが、これに加えて国際会議や展示会、さらにはエンターテインメントといったものも育てていく必要があります。観光は非常に裾野の広い産業です。日本にとっては製造業も大切ですが、サービス産業の分野でも、こうした動きの中で魅力のある雇用の場を創出していければ、という思いがあります。
--すでに日本の国内総生産の70%以上は第三次産業で、その中心がサービス業です。サービス業が豊かで魅力のある雇用を創出しないと、日本全体の底上げにはなりませんからね
岩屋 経済を成長させていく最大の要因はイノベーションにあります。しかし、工業系のイノベーションは、成功しても国内に製造拠点が残るとは限りません。これに対し、サービスはその場所じゃなければ提供できません。そういう意味でも、サービス産業の成長、成熟、発展は極めて重要な意味を持つものと考えられますね。
平位 そうですね。コンベンションには「誘致する」というのと「創造する」という2つアプローチがあります。このうち、これからは創造するという取り組みも強化していく必要がありそうです。『ウィンブルドン現象』という言葉は自由競争による地元勢の淘汰という否定的な用語として使われるのですが、MICE分野では全く逆の意味を持つ肯定的用語だと思います。七十数年ぶりにマレー選手が優勝するまで地元イギリスの優勝者は出なかったのですが、当然、どの国もウィンブルドンを持って帰ることはできなかったし、これからも多大な経済効果を生む世界最高峰のテニス大会であり得るでしょう。負けても勝ち続ける可能性があるのが産業、科学技術との違いです。カンヌ映画祭、ノーベル賞、ダボス会議、ハノーバーメッセ、ピラミッド、世界には多くの人工のソフト、ハードがあります。日本にも既に多く存在しますが、まだまだ宝は眠っているように思います。
--そういった戦略を実現する上で、日本に優位性はありますか
平位 あると思います。産業・科学技術のレベル、安全、安心、文化の深さ、魅力度、ホスピタリティー、民度など多くの点で優位性があると思います。ただ国際ビジネス都市と日本文化を特色にした観光地を同じアプローチで考えてほしくないですね。前者は効率化や利便性、規制緩和が重要ですがやればやるほど世界の大都市と変わらなくなってくる。後者は積極的なガラパゴス化も必要だと思います。また、国際会議の増加や日本のプレゼンスを上げるためには国際機関や各種団体の本部やアジア地域本部の誘致も重要です。これは安全保障の観点からも意味があると思います。たとえば、国連本部の誘致ができれば良いのですが(笑)。
岩屋 世界を見渡しても、今後経済的に最も大きく成長していくのはアジアだろうと思います。日本はその中に位置している。これも大きなアドバンテージでしょう。ますます豊かになっていくであろうアジア太平洋の人、モノ、金、情報が行き来するハブの役割を果たしていくべきだと思います。
平位 しかも、日本らしい取り組みが求められますね。これはMICEやIRなどにもいえることですが。
岩屋 その通りですね。IRについても、日本の良さや特性が最大限生かされたものにすべきです。一方で、そのためには国内外の英知を結集して取り組む必要があると考えます。
--そういう意味では「日本らしさ」が差別化のカギを握っているかもしれませんね
岩屋 IRには、いろいろな要素が盛り込まれていく必要があります。建物のデザインや建築技法、環境技術、ロボットや自動運転車など、日本が世界に誇れるものがたくさん活用されるといいのではないか。一方で、歌舞伎や文楽のような伝統文化にはじまり、音楽やファッション、アニメやマンガなど日本ならではのものが結集されるような、日本にしかできないIRだといいですね。そうすることで、日本に作るIRはいわば「クールジャパン」の発信基地という役割も担えるわけです。
--今後は、訪日外国人観光客の増加を地方創生などにも結び付けていければいいですね
岩屋 政府も訪日外国人の誘致目標を人数以外にも広げています。例えば、観光消費額目標というものがあります。これで見ると、年間6000万人の観光客が来た場合の消費額目標は15兆円とされています。これは大きな数字ですね。外国人の消費は輸出勘定になります。現在最も大きな輸出産品は自動車で、だいたい12兆円ぐらいです。ということは、外国人の観光消費額が15兆円に達すると、日本最大の輸出産業になるわけです。
--IRはその一翼を担うわけですが、将来的にはどうなっていくべきだと考えますか
岩屋 当初は、限られた地域をIRの候補地として選定することになると思います。ただ、大都会だけがよくなる、といった使い方ではもったいないと思う。よくゴールデンルートなどといわれますよね。まず東京に入り、富士山を見て、京都を見て帰る、といった観光コースのことですが、こういったものに限らず、観光客が多様なコースに分散していくような状態が好ましいわけです。そのためにも、カジノを含めたIRが健全に運営されると確認できたなら、第2段階として地方にも拠点を設置してもいいのではないかと思います。政府は、訪日外国人観光客誘致の目標として、外国人の地方での宿泊数も指標に据えました。これは今は3000万人泊ぐらいで推移していますが、30年には1億3000万人泊にしよう、という目標もできました。地方のIRは、その拠点にもなり得るのです。人口減少と高齢化が著しいのは地方です。何も手を打たなければ、経済の縮小は避けられません。かといって、工場を誘致しよう、という時代でもなさそうです。こうした中で、地方の経済を維持するためにも、観光が持つ力を活用すべきだと思います。
平位 日本中一元的な開発手法ではなくそれぞれの都市、地域に合った規模や方法があると思います。MICEやIRはそれ自体の経済効果だけでなく、新産業を生み出したり市民の文化振興にも寄与し、ひいては日本のプレゼンスを上げる戦略的産業だと思います。
岩屋 あわせて、IRも含めた観光をもっと科学する必要があります。今後もますます観光を充実していくためには、高度人材を育成する必要もあります。大学教育も含め、観光関連の研究、教育を強化していくべきではないかと思います。消費がモノからコトに変化しているように、観光も体験型などに変化してきています。そういう変化にも敏感に対応し、日本ならではの観光を世界に提供することで、観光立国として発展できればいいのではないかと思います。
関連記事