マレー半島貫く「一帯一路」 中国「陸の運河」建設着々

アセアニア経済
中国企業による埋め立てが進むマレーシア東部のクアンタン港=1日(吉村英輝撮影)

 中国が取り組む現代版シルクロード経済圏構想「一帯一路」が、東南アジアのマレー半島で具体化している。マレーシア政府と港湾を整備し、半島横断の鉄道で結ぶ計画だ。輸入原油の8割が通過するなど、安全保障上のジレンマとなっているマラッカ海峡を回避して、南シナ海からインド洋へ抜ける独自ルート確立を視野に入れている。

 ◆全て持ち込み突貫

 鈍色の南シナ海を背に大型クレーン数台が、運び込まれた白い砂の上でうなりを上げていた。マレーシア東海岸のクアンタン港では、全長2キロの新埠頭(ふとう)建設に向けた埋め立て作業が着々と進められ、その8割がすでに完了していた。新埠頭を守る、全長4630メートルの防波堤も7割弱が建設され、海面に浮かぶように姿を示している。

 「重機に加え、作業員も全て中国から持ち込まれている。マレーシアには経験や技術がないから仕方ない」。港湾を運営するクアンタン・ポート・コンソーシアム(KPC)の担当者は、目の前で進む「突貫工事」の裏事情を語った。

 KPCは、中国企業が4割を出資する合弁会社。30億リンギット(約760億円)を投じ、大型船舶も停泊できる水深18メートルの新埠頭を増設中だ。中国との貿易量増加で、同港の年間貨物輸送量は、5年前と比べ4倍の4000万トンとなり、すでに能力の限界に達している。中国と組んで、港の規模を倍増させることを決めた。

 2015年4月に始まった新埠頭建設事業のうち、最初の400メートル分は年内に完成し、来年には操業開始する。近くで建設が進む中国の製鉄所が、そこを独占使用する。だが、残る1600メートル分の顧客は未定だ。港から車で15分の場所には、広大な土地に、マレーシア中国クアンタン工業団地(MCKIP)が建設中だ。こちらは、マレーシア側が51%、中国側が49%。予定される3地区中、第1地区には上級従業員向けの宿舎などが完成し、多くの中国人技術者らが近く、入居してくる見通しだという。

 ◆弱点のマラッカ回避

 「日本や韓国企業にもぜひ、利用してほしい」と語るKPCのカーディルCEO(最高経営責任者)には、深まる中国依存への警戒感もにじむ。同時に、新たな鉄道計画に合わせ、港湾内に貨物駅を建設する考えを明らかにし、「さらに多様なニーズにも対応できる」とアピールした。

 鉄道計画は昨年11月、中国の李克強首相が、訪中したナジブ首相に協力を約束した。マレー半島の東海岸と西海岸の全長620キロで結ぶもので、中国企業が受注した。事業費は550億リンギットを見込む。

 実現すればクアンタン港は、マレー半島を横断するその鉄道で、250キロ離れたクラン港につながる。同国最大のクラン港は、首都のクアラルンプールにも近い免税の自由港。クアンタン港も今年6月に自由港になる予定。両港がつながれば、戦略的な「陸の運河」が出現する。

 マレーシアの東海岸は開発が遅れ、西海岸に集中する日系企業などの関心は薄い。だが、中国から近く、ナジブ氏の選挙地盤でもある。中国は、南シナ海でのマレーシアとの領有権問題も念頭に、積極的にこの地域の開発に協力してきた。

 一方、マラッカ海峡は、米国と軍事協力関係にあるシンガポールが、同海峡との接続点であるシンガポール海峡を牛耳り、影響力を保持する。シンガポールの海軍基地には米海軍が巡回寄港するなど、中国にとっては安保上の“弱点”だ。

 タンカーと鉄道では輸送量が違い経済効果は限定的だが、東南アジア研究所(シンガポール)のタン・シュー・ムン上級研究員は、シンガポール海峡を鉄道で回避する新構想は「中国にとり地政学的意味合いが大きい」と指摘する。(マレーシア東部クアンタン 吉村英輝)