トランプ氏「サンキュー」なんだった? 苦境のサムスン、米投資決定できず 韓国経済は泥沼化
韓国最大の財閥、サムスングループは当惑しているにちがいない。グループの中核企業、サムスン電子が米国に新工場を建設する可能性があるとの報道に、トランプ米大統領がツイッターで謝意を示し、確報であるかのように扱ったからだ。サムスングループは経営トップの李在鎔(イジェヨン)サムスン電子副会長が逮捕され、司令塔が不在の状況で、新工場の建設もすぐには決定できそうにない。トランプ氏が企業に米国での投資や雇用の拡大を迫っているのに対し、トヨタ自動車など日米欧や中国の大手企業が相次いで“恭順”姿勢を示す中で、韓国を代表するガリバー企業のこうした経営空白は、韓国経済の危機を象徴する事態といえそうだ。
「ありがとう、サムスン!」。トランプ氏は2日、サムスンの米国工場建設に関する報道を受けて、ツイッターにこう書き込んだ。報道は米国に拠点を置くネットメディアが同日、伝えた。ソウル発の「ロイター通信」を引用した形で、洗濯機や掃除機などの「白物家電」の工場建設をサムスンが検討しているとしている。
サムスンは「米国での新たな投資の必要性を検討し続けていく」とのコメントを発表したが、あくまでも検討段階との位置づけで慎重姿勢を崩していない。
未公表の工場新設を既成事実であるかのように扱うトランプ氏の真意は明らかでないが、サムスンにとっては一定の圧力となるのは間違いない。
しかし、サムスンの経営の中枢はトップの逮捕により機能不全の状況で、工場の新設どころではないのが実情だろう。
李氏が韓国の特別検察官(特検)に逮捕されたのは、トランプ氏のツイッターから約2週間後の17日。朴槿恵(パククネ)大統領の友人で女性実業家の崔順実(チェスンシル)被告に対する贈賄などの容疑だ。サムスングループ内での企業合併で、朴政権の支援や優遇などの便宜供与を期待し、崔被告側に賄賂を贈った疑いがある。
「これで全てが不確実になった。オーナーの決断が必要な事案は全部中断が避けられない」。聯合ニュースはサムスン関係者のこうした嘆きを伝えた。サムスンは集団指導体制で難局を乗り切る構えだが、グループに君臨してきた創業家の3代目として求心力を高めてきたトップの不在で、競争力強化に向けたM&A(企業の買収・合併)など重要な投資決定が滞るのは必至だ。
ソフトバンクグループの孫正義社長は昨年12月、米大統領就任前のトランプ氏と会談し、米国での5兆円超の投資や5万人の雇用創出を約束。トヨタ自動車の豊田章男社長も今年1月、米国に今後5年間で100億ドル(1兆1200億円)の投資をすると表明した。
米自動車大手ゼネラル・モーターズ(GM)は米国で10億ドルの追加投資を実施すると発表。欧州自動車大手フィアット・クライスラー・オートモービルズ(FCA)も米国内の工場の生産設備を増強し2000人を追加雇用する方針を打ち出した。
中国の電子商取引最大手アリババグループの馬雲会長は、トランプ氏とニューヨークで会い、米国内で自社のサービスを拡大し、新規雇用につなげる計画をアピールしている。
メキシコなど米国外の工場で生産した製品を米国で販売する企業に対し、関税引き上げなどの対抗措置をちらつかせて批判を繰り返すトランプ氏の矛先をかわすには、サムスンもトップ自らが米国での投資決定を表明したいところだろう。だが、現状は逆に出遅れ感を鮮明にしている形だ。
サムスンはただでさえ苦境にある。昨年、欠陥が明らかになったスマートフォン「ギャラクシーノート7」の生産・販売停止に追い込まれ、消費者の信頼が失墜した。
米国内での企業イメージも悪化が目立っている。中央日報によると、米国の世論調査機関「Harris Poll」が2017年の米国内における企業評判指数(Reputation Quotien)を調査したところ、サムスンは前年の7位から49位に大きく順位を落とした。
販売にも影響が出始めている。米調査会社ストラテジー・アナリティクスがまとめた16年10~12月期のメーカー別スマホ世界出荷台数で、サムスンは7750万台となり、前年同期の首位から2位に転落した。首位は米アップルで、7830万台だった。
サムスンは今回のトップ逮捕で、傷ついたブランドイメージの回復が一層遠のくのは避けられそうにない。そればかりでなく、海外での贈賄を禁じた米国の海外腐敗行為防止法など各国の法律に基づく制裁を受け、事業が制限される懸念さえも浮上している。
韓国でのサムスンの存在は絶大で、国内総生産(GDP)と輸出の約20%を占める。トップが逮捕されたのは設立以来初で、「起業79年で最大の危機」(韓国メディア)に直面した。
「サムスンの経営空白による不確実性の増大と国際信任度の下落は、それでなくとも厳しい現下の韓国経済に大きな負担として作用するだろう」(韓国経営者総協会)。ハンギョレ新聞は韓国の経済団体のこうした憂慮の声を報じている。
韓国経済は中国の景気減速のあおりで不振にあえいでいる。さらには、韓国の海運最大手で世界7位だった韓進海運が17日に、裁判所から破産宣告を受け、お家騒動を起こしたロッテグループも刑事事件で会長らが在宅起訴されるなど、大手企業が次々に揺らいでいる状況だ。
トランプ政権の誕生などによる世界的な保護主義の台頭はグローバル市場に依存する韓国に打撃を与えるのは確実で、同国では1997年の通貨危機のような経済危機の再来が指摘されている。トップ逮捕によるサムスンの事業停滞が、こうした韓国経済の泥沼化に拍車をかける恐れは大きい。(経済本部 本田誠)
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