無難に乗り切った日米首脳会談 陰の主役は“中国” 直前の米中会談「密約」観測も
2月10日の日米首脳会談で、トランプ米大統領からは、通商政策や為替政策をめぐって“無理難題”は出ず、日本側には「満額回答」といえる内容となった。エコノミストも総じて高評価だ。ただ、日米首脳会談直前の微妙なタイミングで米中首脳が電話会談したことに日本側は驚愕(きょうがく)し、市場でもさまざまな憶測が飛び交う。日本は首脳会談の成果をアピールするだけでなく、米中の“裏取引”を警戒すべきなのかもしれない。
大成功の首脳会談
「日本にとってほぼパーフェクトな結果」
JPモルガン・チェース銀行は2月12日のリポートで、首脳会談の成果を高く評価。日本の為替・金融政策に対する批判が飛び出すのではないかとの懸念は、「取りあえず杞憂(きゆう)に終わった」と結論づけた。
実際、安倍晋三首相とトランプ氏は、為替と通商をめぐる衝突を回避し、安全保障分野で同盟強化を前面に打ち出した。
両国は安保と経済を切り離し、貿易・投資の相互強化を協議する「経済対話」の枠組み新設で合意するなど、ほぼ日本側の描くシナリオ通りとなった。
三井住友アセットマネジメントの市川雅浩シニアストラテジストは「友好ムードの中で波乱なく終了し、安倍・トランプ下の日米関係は順調にスタートした」と分析。みずほ総合研究所の菅原淳一主席研究員も「総じて高く評価できる内容」と評した。
対中国で温度差?
日本側の思惑通りに幕を閉じたようにみえる首脳会談だが、安倍首相とトランプ氏の間では、中国をめぐる微妙な認識の隔たりが見え隠れした。
トランプ氏は昨年11月の大統領選勝利後、中国批判を加速させてきた。中国に米国内の雇用が奪われていると主張し、まず貿易不均衡や為替政策をやり玉に挙げた。
その上で、「中国を『為替操作国』に認定し、輸入関税を45%にする」「中国は米国民の飢死を望んでいる」などと発言し、中国への対抗意識をむき出しにした。中国本土と台湾は不可分とする「一つの中国」原則についても疑問を呈し、昨年12月には台湾の蔡英文総統と異例の電話協議にも臨んだ。
中国の軍拡に懸念を強める日本政府にとって、トランプ氏の対中強硬姿勢はマイナスではなかった。
「安全保障面で、日米が足並みをそろえて中国を牽制(けんせい)する絶好の機会」。日本政府は、日米首脳会談をこう位置づけていた。
首脳会談終了後の記者会見で、安倍首相は中国を念頭に「東シナ海、南シナ海、インド洋、いずれの場所であろうとも航行の自由をはじめ、法の支配に基づく国際秩序が貫徹されなければならない」と強調した。
ところが、トランプ氏は、前日(9日)の習近平・中国国家主席との電話会談に言及。「とても温かい会話となった。うまくやっていける」とはぐらかし、一転して融和ムードを打ち出した。
ホワイトハウスによると、米中両首脳は電話で長い時間協議し、多くの議題を話し合った。ただ、具体的な議題として公表したのは、トランプ氏が「『一つの中国』政策を尊重する」と表明したやりとりだけだった。
米中の裏取引は?
日米首脳会談直前という絶妙なタイミング。狙ったような米中首脳電話会談をめぐっては、日本の市場参加者の間でも憶測が飛び交った。
市場では「日米首脳会談の共同声明で尖閣諸島(沖縄県石垣市)に触れることが分かっていたので、トランプ氏が中国への配慮を示した」との見方が支配的だ。
JPモルガン・チェース銀行は「通商・為替政策に関する日米間の議論は和やかで友好的なものであり続けることはないだろう。トランプ氏が安倍首相との会談直前に習氏と電話会談したのは、日本への牽制の意味があった可能性もある」と解説する。
昨年の米国の対日赤字はドイツを抜き、中国に次ぐ2位に浮上した。赤字の約8割は自動車関連のため、米自動車メーカーの不満はくすぶり続けている。今後の経済対話で議論が蒸し返される恐れは十分ある。
ただ、トランプ氏の中国批判が突然鳴りを潜めたのは奇異な印象だ。
「米中は表面上は対立しているが、裏側で手を握っているのではないか」。
ある証券系エコノミストはこんなうがった見方を披露する。米国が中国を為替操作国に認定すれば、中国は人民元買い・ドル売りの為替介入をやめてしまい、かえって大幅な元安を招いて中国の輸出競争力を高めてしまうからだ。
一部報道によれば、日米首脳の記者会見終了後、外務省幹部は「経済面で(米中間に)何らかの取引が進んでいる可能性がある」と警戒感をあらわにした。
みずほ証券の上野泰也チーフマーケットエコノミストは「日米首脳会談の『陰の主役』は中国だったのではないか。米中電話会談などで、中国が米国に投資する見返りに、米国は中国の為替介入を黙認するという密約が交わされた可能性もゼロではない」と解説する。
密約が事実とすれば、米中のやり口はあまりにもしたたかだ。「トランプ氏は柔軟なビジネスマン」との評もある。さらに、通商・為替問題で中国が歩み寄る代わりに、安全保障問題で米国が中国に配慮する「裏取引」が万一交わされれば、日本外交にも大打撃となる。2月末には中国外交トップの楊潔●(竹かんむりに广に虎)国務委員が米国を訪問。トランプ政権の発足後、中国高官の訪米が確認されるのは初めて。
米中の裏取引は、日本の対米・対中ビジネスに影響を与えかねず、金融市場の大混乱も招きかねない。日本は官民を挙げて、米中の水面下の駆け引きを「監視」し続けるべきだろう。(経済本部 藤原章裕)
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