習近平氏訪問で極貧村が豊かに 恣意的な貧困対策に隣村は不満

 
中国共産党の習近平総書記のポスターの前で、笑顔の唐宗秀さん=2月6日、河北省阜平県(共同)

 極貧の村は国家指導者の一声で一変した-。2012年12月、中国共産党総書記に就任したばかりの習近平国家主席が訪れた河北省の村では今、場違いなほど立派な道路が整備され、古い住宅を建て直すつち音が響いていた。巨額を投じて進む官製の「脱貧困」の成果。ただ隣接する農村は貧しいままで、住民からは不満が漏れる。

 「暖かいでしょ」。河北省保定市阜平県の山村。唐宗秀さん(72)が真新しい自宅に招き入れてくれた。唐さん宅は習氏の視察先の一つ。取材に訪れた2月上旬は昼間でも氷点下だったが、暖房が完備され、二重窓が冷気を遮る。部屋には習氏のポスターや写真が飾られていた。「国が家を建ててくれて、暮らしは良くなった。習主席にまた会いたいけど難しいだろうね」とはにかむ。「信じれば黄色い土も金に変わる」。習氏は12年の視察で村民らにこう呼び掛けた。深刻な汚職や貧富の格差拡大で共産党が国民の支持を失いかけているとの焦りから、貧困対策に全力を注ぐ姿勢を示す狙いがあった。

 中国メディアによると、阜平県は視察翌年の13年にモデル地区に指定され、県の財政収入の7倍に当たる資金でインフラ整備が始まった。15年の経済成長率は12年と比べて約22%伸び、メディアはこぞって「脱貧困のお手本」と持ち上げた。今月5日に開幕、15日に会期末を迎える全国人民代表大会(全人代、国会に相当)では、党・政府が貧困対策の成果を強調している。

 阜平県が視察先に選ばれたのは、抗日戦争の拠点の一つで、国民党との内戦のさなかに毛沢東が重要会議を開いたからだ。「党は阜平県の貢献を永遠に忘れない」。習氏は視察に合わせて愛国心を鼓舞し、共産党による一党独裁の正統性を訴えるのを忘れなかった。

 「習主席って誰だ。知らない」。阜平県に隣接する唐県の農村で、ごみの山をあさっていた男性(79)はそっけなく答えた。周囲の住宅は窓ガラスが割れ、家畜の糞尿(ふんにょう)の臭いが漂う。阜平県との落差は大きい。

 農業の男性(81)は恣意(しい)的な貧困対策に冷ややかな目を向けていた。「阜平県が発展したのは国の金のおかげだ。こっちの生活は何も変わらない」(阜平県 共同)