「並べる力」と「選ばれる力」(上)

新興国に翔ける
スパイダー・イニシアティブ代表森辺一樹氏

 □スパイダー・イニシアティブ代表・森辺一樹

 日本の消費財メーカーが、アジア新興国市場で売り上げを拡大させるために行わなければならないこととは、いったいどのようなことだろうか。現地での売り上げを拡大させるためには、どのような「力」が必要とされるのだろうか。実際に現地で高いシェアを誇る欧米の先進グローバル消費財メーカーは、どのような力で売り上げを拡大させているのだろうか。今回と次回の2回に分けて、日本の消費財メーカーがアジア新興国市場で必要となる「力」について解説する。

 消費財メーカーにとって最も重要なのは「いかにして多くの人に繰り返し買ってもらえるか」である。より多くの人により早い頻度で繰り返し買ってもらうことこそが、消費財メーカーにとって最大の強みとなる。全ての事業活動は、この強みを手に入れるためであると言っても過言ではない。

 まず、「いかにして多くの人に買ってもらうか」をどう実現するかについて考えていきたい。多くの人に買ってもらうには、多くの小売り店舗に商品を並べなければならない。言い換えれば、より多くの消費者の手に届くようにすることだ。つまりは、より多くの小売り店舗に配荷することこそが「並べる力」なのである。

 前回も述べた通り、アジア新興国市場は、伝統的小売りが圧倒的多数を占める。例えば、VIP(ベトナム、インドネシア、フィリピン)など、東南アジア諸国連合(ASEAN)の中でも特に経済成長が著しい国々の市場は、金額ベースで8割を伝統的小売りが占め、近代的小売りは2割に過ぎない。店舗数ベースでみると、実に99%以上が伝統的小売りの市場だ。

 ASEANで近代的小売りの店舗数が最も多いインドネシアですら2万店強で、セブン-イレブンの日本国内店舗数と同じ程度である。近代的小売りの数がいかに少ないかが分かるだろう。仮に、近代的小売り店舗への配荷率が100%でも、それだけでは高いシェアを獲得できない。一方で、インドネシア国内の伝統的小売りは、300万店以上も存在する。

 また、ベトナムでは近代的小売りの総数が約1200店であるのに対し、伝統的小売りは50万店以上が存在する。近代的小売りだけでは、高いシェアどころか、いつまでたっても黒字にすらならない。

 並べることに対して各種導入費(リスティング費や店内プロモーション費、広告協賛費など)がかかる上に、数の限られた近代的小売りの店頭だけに商品を並べたのでは、「毎日が閉店セール」の数倍の売れ行きがなければ永遠に利益が出ない。

 したがって、アジア新興国市場で求められる「並べる力」とは、伝統的小売りを含めて数万店から数十万店で商品が売られることを意味する。この力がない限り、売り上げは決して拡大していかない。

 次回は、日本の消費財メーカーにとってもう一つ必要不可欠な「選ばれる力」について解説する。

【プロフィル】森辺一樹

 もりべ・かずき 海外販路構築のスペシャリスト。15年以上にわたり1000社以上の海外展開の支援実績を持つ。アジア新興国市場の販路構築が専門。海外市場開拓コンサルタントの第一人者として活躍中。“アジアで売る”ためのノウハウをネットラジオで無料配信中!

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 >>森辺氏のツイッターは @kazukimoribe