「世界で2番目に空気が汚い」韓国のPM2.5 中国から飛来も文句言えない実情

 
ソウル市がHPで発表している「大気環境情報」。画面はPM2.5による地域別の汚染度を示している日本語版。「悪い」を示すオレンジが結構多い

 朴槿恵(パク・クネ)前大統領の逮捕で大騒ぎの韓国だが、国民の騒ぎとなっているのは政治にとどまらない。鳥インフルエンザや口蹄(こうてい)疫、さらに最近の韓国メディアは別の問題も取り上げるようになった。大気汚染だ。

 中でも問題視されているのは、中国では以前からいわれている微小粒子状物質「PM2.5」。朝鮮日報(日本語版)によると、今年に入ってから3月21日までの間に、韓国国内でPM2.5の警報と注意報に相当する「特報」が発令された回数は85回を数え、昨年の41回、一昨年の51回と比べてもはるかに多くなった。

 朝鮮日報はまた、3月21日朝のソウルの空気は一時、インドのニューデリーに次いで「世界で2番目に汚れていた」と報じた。「あくまで一時的だったとはいえ、北京よりもソウルの空気の方が汚れていたのだ」と。

 日本でもPM2.5問題がないわけではないが、汚染度は韓国のほうがはるかに深刻のようだ。

 PM2.5とはどういうものか。日本の環境省はウエブサイトで次のように説明している。

 (1)PM2.5とは、大気中に浮遊している2.5マイクロメートル(1マイクロメートルは1ミリの1000分の1。髪の毛の太さの30分の1程度)以下の小さな粒子のこと。

 (2)PM2.5は肺の奥深くまで入りやすく、呼吸器系への影響に加え、循環器系への影響が心配されている。

 韓国ではマスクや空気清浄機の販売が好調なのだという。朝鮮日報によると、インターネット通販大手のオークションの話として、3月21日からの1週間で粒子状物質や黄砂を吸い込むことを防ぐ「黄砂マスク」が前年同期の5倍以上の売れ行きをみせている。

 このほか、綿状のフィルターを鼻に直接差し込む「鼻マスク」というものの販売量が3倍近くに増加した。携帯して酸素を吸入できる「酸素缶」を買い求める人も増えており、酸素缶の販売量は前年同期の4倍以上に伸びたという。

 PM2.5の余波は食品にも及んでいる。ブロッコリーやセリ、梨といった野菜や果物が「粒子状物質の排出、解毒に効果がある」とされて、販売が「49~107%増えた」という。

 では、韓国の空を汚すPM2.5の原因は何か。

 中央日報(日本語版)は、「韓国政府は昨年6月に粒子状物質総合対策を出したが、むしろ悪化した」と指摘する。また「政府やソウル市は環境基準の超過が繰り返されているにもかかわらず、農村不法焼却の取り締まりや工事現場のほこり取り締まりなど以外には『特別な』対策を打ち出せていない」と断じ、朴前大統領らの“失政”をここでも糾弾した。

 しかし元凶は、日本の場合と同様、やはり中国にある。

 朝鮮日報は、PM2.5が今年になって特にひどくなっている原因について専門家の話を紹介。「(韓国)国内で排出されるPM2.5が大きく増加したことよりも、風や気圧配置などの気象要因が影響を及ぼしているようだ」、「中国からやって来る移動性高気圧が朝鮮半島周辺で停滞する期間が長引いている影響で、以前よりも大量に蓄積された可能性がある」、「3月15日に中国で全国人民代表大会(全人代)が終わると、中国では大都市にある工場が一斉に操業を再開するため、それによって北京などの大気汚染がひどくなることも一つの要因だろう」などとして、韓国に充満するPM2.5は多くが中国から来たものだとしている。

 中央日報は、韓国環境省の分析として「中国から飛来したものが70~80%に達する」と報じた。

 PM2.5は韓国からすればまさにトバッチリといえよう。「積極的な環境外交に乗り出し、中国に言うべきことは何でも言わなくてはならない」(中央日報)と主張したくなるのも当然だろう。

 ところが、中韓関係は、米軍の最新鋭迎撃システム「高高度防衛ミサイル(THAAD)」の韓国配備を受けて悪化している。特に、中国側の韓国側への反発は嫌がらせといいたくなるほど執拗(しつよう)なもので、韓国のさまざまな分野に影響を及ぼしている。しかも、韓国の政治は完全に空白の状態だ。果たして中国と「積極的な環境外交」ができるのだろうか。

 3月31日付の東亜日報(日本語版)は、ソウル市がいよいよ新手の対策を検討していると紹介した。ドローンの活用だという。

 一つは、フィルターを搭載したドローンを数十~数百台、特定地域の上空に飛ばして粒子状物質を吸い込む“飛ぶ空気清浄機”。もう一つは、ドローンが空中から水や化学物質を散布する方法だ。粒子状物質を固めて凝固させる化学物質700キロを空中からまき、5キロ半径の粒子状物質を地面に落としたり、大気汚染が深刻なところに雨を降らしたりすることが検討されているそうだ。もっとも、ネットでは「冗談じゃないか」と反応は厳しい。

 朝鮮日報には、ある論説委員の“ぼやき”が載っていた。

 「世界の空気清浄機の市場規模のほとんどを韓国と中国が占めている。つまり韓国と中国の国民は大気汚染で苦痛を強いられてはいるものの、一方で家電メーカーは空気清浄機がよく売れたため多くの利益を上げた。これでは大気汚染平等論ももはや通用しなくなったのかもしれない。昨年の空気清浄機売上高の1兆ウォンも当然GDP(国内総生産)にカウントされたはずだが、それによってわれわれがそれだけ豊かになったとは到底思えない」(経済本部 今堀守通)